第6話 彼女が笑った気がしたのは気のせいなのだろうか?

「おや、お二人とも初めてのことで緊張しておられるのですかな?」


「あぁ、ペンルイス侯爵の言う通りだ。メリルもマクリッドも堅いぞ。ここは俺たちがいない方がよさそうだな。」


「陛下のおっしゃる通りですね、では、後は若い者たちだけで楽しんで頂ければよいかと。陛下、最近、貴重な酒が手に入ったのです!今日はお二人の婚約のお祝いでぜひ、ご馳走させてください!」


そう言うと二人は俺たち二人を部屋に残して部屋から出ていこうとする。親父、口では俺たちのためとか言っているけど、絶対目当ては酒だろ!


「それは良いな、侯爵!今日は夜まで飲み明かすぞ、祝いの席だ!」


「もちろんです、飽きるまで付き合わせていただきます!」


ということで、俺たちは婚約した瞬間に二人きりにされてしまったのだ。いや、前世でも彼女すらいたことがないのにこの状況でいったい何を話せばいいんだよ。


ただでさえ、女の子と話す機会なんてめったにないのに。ましてや、ひとめぼれした子だぞ!ヤバイ、頭の中が真っ白になって何も話題が浮かばない。


頭をフル回転して会話の話題を考えていると彼女の方から質問が飛んできた。


「一つ、ご質問をしてもよろしいですか?」


「えっ、うん。良いけど。」


「先ほど、マクリッド様はご自身の呼び方を殿下と言うのを止めて欲しいと言われた際に私に最終的な決定をゆだねられましたよね?あの場合、マクリッド様は王族ですので殿下と呼ぶなとおっしゃって頂ければそれで問題ありませんでしたのに、どうしてあのようなことを言われたのですか?」


俺の呼び方の時って、彼女が一瞬、笑ったような気がした時だよな?


「だって、そんな関係嫌じゃないか?確かに、軍とかの組織系統で上からの命令を聞かないのはダメかもしれないけど、それとは違うでしょ?夫婦間で一方的に命令したりされたりする関係なんて破綻が目に見えているよ。やっぱり、何でも言い合える信頼関係が大切だと思うよ。」


前世の記憶がある俺からすればこんな亭主関白のような文化は古いんだよな。こんなの、女の人が耐えてたから成り立っていた構図だよ。


まぁ、確かにこっちの世界では15年ほど過ごしてきたけど、あの親父を見て育ってきたからな。あんまり、前世と変わらないんだよ。そういうわけで、俺からしてみれば夫婦関係が平等なんて当たり前のことなんだよ。


「そうなんですか、マクリッド様のお考えはよく分かりました。私の聞きたいことは以上です、ありがとうございます。」


俺が言うのもなんだけど、ものすごい定型文だな。そういえば、彼女の家は商人たちのまとめ役でもあるんだよな?それなら、やっぱり商売のこととかに興味があるのかな?


もしかしたら、好きなことなら表情豊かに話してくれるかもしれない。やっぱり、自分の好きなことを話すときって楽しいよね。


「ねぇ、それじゃあ俺からも質問していい?」


「問題ありません、私が答えられることであればお答えします。」


「じゃあ、メリルの家は商人たちのまとめ役なんだよね?それならやっぱりメリルも商売とかに興味があるの?」


俺がそう尋ねると相変わらずの真顔で彼女は答え始める。


「はい、私は小さい頃から父に商売を教わってきているので興味があります。現在は一般用に新たな人気商品を開発する事業を任せてもらっています。


ですので、あの将棋という玩具を見た時には衝撃を受けました。綿密に考えられたルール、ゲームの奥深さなど素晴らしいアイデアだと感じました。」


なんか、ここまで褒められると照れるな。まぁ、将棋なんて自分で考えたものではないからそれを自分の手柄のようにふるまう気はないんだけど。


というか、これだけ話して一度も笑わないなんて興味がない話題だったのだろうか?それとも、単純にこの婚約話に前向きではないのだろうか?

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