一日目
ピピピピ……ピピピピ……
一定のリズムで、メロディーともとれない音を鳴らす目覚まし時計を、私は右手でボタンを押して止める。
「ふわぁ……」
大きなあくびをして、布団から起き上がった。まだ眠気がかなり残っている。
二度寝しようかな……でも大学行かなきゃな……
朝の支度へ向かおうとすると見慣れない紙が机の上にあった。その上にはカメラも置かれている。
「何だろこの紙。文字の筆跡は私っぽいな……寝ぼけて書いたのかな。何々……」
そこへ記載されていた文章を目にした途端、頭が強く揺さぶられたような感覚に陥った。
「!」
なぜかは全く分からないが、そこへ書かれてあることを何よりも優先すべきだという使命感が降り注いだ。
そしてこの文だけは、どれだけ時間が経とうとも私の記憶から消えることのないように感じられた。
「えっ、大学サボって良いの⁉ ラッキー!」
朝食は軽く済ませ、歯磨き、着替え、化粧も流れるように完遂させる。善は急げということで、早急に外出の準備を終えた私は、住処を後にした。
「よし、行ってきます」
数か月前に免許は取っていたが、カーナビの使い方はよく分からないし、電車の方が早く目的地に着ける。
私は最寄りの駅まで歩くことにした。
電車に乗り込んでからは、しばらくの間うとうとしては目を覚ますの繰り返し。
寝不足だったので本当はぐっすり眠りたかったのだが、目的地に近い駅は終点ではないので、寝過ごすと危険なのだ。
昨日の夜は遅くまで何をしてたんだっけ……思い出せそうで思い出せない。
二時間ほど電車に揺られ、更に十五分ほど歩いたところで、辿り着いたのは……
「わあ……」
平日の午前中だが、それなりの来客で賑わっている。
生い茂った木々に実った、たくさんの赤い果実。そう、りんご園だ。
品種とか味とかは詳しくないけど、私は果物の中でりんごが一番好きなのだ。
見惚れていると、自分の立っている場所の傍に看板が立っているのに気付いた。
「りんご狩り体験⁉ できるの⁉」
紛うことなくりんご園なので、りんご狩りができるのは確実なのだけど、私がこれまで目にしたのは、りんご狩りシーズンにテレビへと映るものくらい。
もし一日フリーな時間ができたなら、一度現地に赴いてやってみたかったのだ。
大きな籠を持ち、早速りんご狩り用のスペースへと入っていく。
「いっぱいあるなあ……どれを取ろうか迷っちゃうよ」
いつもの赤いりんごだけでなく、青りんごもたくさんある。青りんごの実物なんて中々食べる機会がないので是非ともと思い、即座に捥いで籠に入れる。
これでしばらくは朝食にりんごが食べられるな……楽しみ。
十五分ほど続けたところで、そろそろ籠が重くなってきた。
うーん、容量的にあと一個かな……
「おっ」
ちょうど前方に、大きくて真っ赤な一個が見えた。
よし、最後はこれにしよう。と、その前に……
私は両手の指で首から下げていたカメラを抱え、力強くシャッターを押した。
一枚だけ。約束守ったよ。
フォルダにも、私の心にも、バッチリ保存された。
その後も同じ県を観光し、有意義な時間を過ごすことができた。
「はあ、楽しかった~」
帰りの電車ではあっという間に深い眠りについた。
明日はどこへ行こうかな……
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