スカイブルーフィルム
ぶれいず。
夜
私、青山晴は今日、余命宣告をされた。
一週間だ。あと一週間しか私は生きられないことが確定したのだ。享年二十一歳。
それを聞かされた際には驚きも怒りも、はたまた絶望もなく、ただ虚しさだけが私の中に蔓延していた。
私の人生はなんてつまらないものだったんだろう、と。あっけなく幕を閉じようとしている自分の生涯に虚しさを感じたのだ。
一人暮らしで両親も他界しているからなおさらだった。
未知の病気だから、治す方法もなし。どう足掻いても助からないし、余命を延ばすこともできない。
そう私に伝えたお医者さんを疑おうとも思わない。それに費やす時間すら勿体ないと思えてくる。
そして、更に恐ろしいことにこの病気には、発症した日から、記憶したことをその次の日にはすべて忘れてしまうという症状がある。
前の日、誰に会ったかも、夜何を食べたかも。
今日から一週間しか生きられないということすら明日にはきれいさっぱり忘れてしまうんだと。
でも、いっそのこと余命を知らずにいた方が幸せなのかもしれない。死を恐れて心を擦り減らせながら最期の瞬間を待つよりも、ある時突然ぽっくり行ってしまった方が楽だ。
どうすれば私の人生はつまらなくなくなるだろう。私は書斎の机に座って一人考えていた。
本棚から何冊か取り出して読み耽ってみる。明日にはリセットされてしまうのだから、読んで知識を増やしても意味はない。分かってはいたが、私はページをめくる手を止めなかった。
懐かしい。最終ページには栞が挟まっており、所々に折れたページがある。
この本のことは強く記憶に残っている。私と年齢のほど近い女性が、カメラを手にして日本中を旅するノンフィクションの物語だ。
両親もいとこもない自分がいつ死んでも構わないように、行ってきた場所の写真を集め、アルバムを作る。自分という人間がいた証として。
その主人公は病を患っていたわけではないが、今の自分と重なって映った。
元作家志望として、他人のアイディアを模倣するのは気が引けるけど、どうせ死ぬんだ。ありがたく使わせてもらおう。
ただ、あまり調子に乗って何枚も撮影していると未来の私が余命に勘付くヒントが映ってしまうかもしれない。
撮る写真は一日一枚にしよう。
私はメモ帳から一枚破って、机の上に転がっていたボールペンで思いつくままに書き殴った。
「朝起きてこの紙が目に入ったら、下に書かれてある内容を実行すること。この紙とカメラは次の日までにこの位置に同じように置くこと。他のやるべきことはその時に応じて放棄しても良い。
“今日、これまで一度も行ったことのない場所へ日帰りで旅行をする。極力人とは会話しない。そして、帰ってくるまでに必ず、『一枚だけ』写真を撮る。帰ってきたらその写真をこの裏に書いておく。写真に写っている場所に再び行ってはいけない。”」
その後、私は長いこと使用していなかった一眼レフのデジタルカメラを棚から取り出し、メモ用紙の上に乗せておいた。
後は何も考えないようにして、部屋の明かりを消し、布団を抱きかかえるように横になった。
夜が明けたら、私の最後の七日間が始まる。
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