16話雷姫リリーと黒猫

 少し時間を遡り、ワタルと獣王テンガが戦闘してる頃。


 ムライア王国城内にて


「くそっ、結局、桜井歩夢は発見出来なかったか。まぁ、もういい。今はあの穢らわしい獣人共の国との戦争間近だ。Sランクは諦めるとして、充分に冒険者ハンターは集まって来ている。

 それにこちらには姫様がいるのだからな。負ける要素が一つたりともないわい。あっははははっ」


 フードのリーダーが歩夢(今はワタルだが)が発見出来ない事にイライラしているが、戦争間近なので、キッパリ諦め忘れる事にする。そのワタルが獣王国オウガにいるとは露知らずに。


「おぉ、そうだ。お前達例の物の完成度はどのくらいか?」

「はっ、80%を越えたところでございます」


 部下のフードが答えに少しリーダーは満足そうだ。


「そうかそうか。だが、戦闘までもう少しだ。間に合うと思うが油断せずに急げ。戦争の勝利は我々の手に!」

「「「「「おぉぉーーー!!」」」」」


 部下の士気を挙げると魔法兵器マジックウェポンの製作の続きに取り掛かるのであった。


 場所は変わり玉座の間


「父上、お呼びでしょうか?」


 ワタルより少し年下の様な女性が玉座に鎮座する豚王に片膝を床に付き頭を垂れている。


「よう来たのー。我が娘、リリーよ。そなたを呼び戻したのは他でもない。あの穢らわしい獣人との戦争に参加してもらいたいのじゃ。この国唯一のSランク冒険者ハンターとしてな」


 リリーと呼ばれた女性はその場で起立し、腰にさげてる剣を鞘を抜き上に掲げた。


「はっ、この雷鳴剣タケミカヅチに誓いまして絶対に勝利に導いてさしあげましょう。父上」

「期待してるぞ。リリー」


 リリーは剣を納めると王国の騎士や一部の冒険者ハンターの戦闘訓練するため、玉座の間を後にした。


 そして、時間は戻り獣王オウガにて


「妾のワタルは強いだけではないのじゃ。妾の知らない魔法を習得してるのじゃ。後、妾とワタルは契約をしてるのじゃ」

「ほぉーそうなのか。ん、契約と言ったか?」

「言ったの。それがどうした?」

「契約と言ったら一生離れないではないか!あ、良いのか。そなたらは夫婦であったな」


 本人がいる所でノロケ話をしないで欲しい。凄く恥ずかしい。


「ワタルよ。テン坊にもお主の魔法見せてやれ」


 やれやれと獣王テンガに自分のステータスを見せる。


「ふむ、どれどれ....娯楽魔法だと....魔法に疎い我でも珍しい魔法と思える」

「獣王様、このことは内密にお願いします」

「あぁ、分かっておる。それにワタルよ。我の事はテンガと呼ぶと良いぞ」


 え、王様を呼び捨てになんて普通は頼まれても出来るはずはないのだが、睨んでくるので仕方なく言う通りにした。


「分かりました。テンガ、これで良いですか?」

「うむ、それで良いぞ。それで、ワタルに頼みがあるのだが、我も娯楽とやらをやりたいぞ」


 フランもそうだが王様という人達は何でこんなに娯楽に飢えてるだろうか。まぁ、気持ちは分からない訳もないのだが。


「ほぉー、麻雀ではないか。これは何度やっても面白いの」


 フランの言葉に獣王テンガも興味を示したのか目がキラキラと輝いている。

 だが、獣王テンガの巨体ではやりにくいと考えたのか自分の身体を普通の人間サイズに縮んだのだ。むしろ、人間サイズに縮んだ方がイケメンに見える。


「ふむ、これでやり易くなったの。その麻雀とやらを早くやろうぞ」


 簡単に麻雀のルールを獣王テンガに説明し始めると直ぐに夢中になった。

 ワタルの故郷・地球の日本でも夜中から朝になるまでやる人はいるが、ここでもそんな感じになるのだろうか。


「ほれ、それロンじゃ。まだ、点数計算が慣れぬ。見てくれぬか」


 始めたばかりだと点数計算は難しいが、その内出来るようになるだろう。


「それで、夜とは会うのか?魔王よ。きっと、ここに来てることは知られてると思うぞ。それポン」


 夜と聞いてフランは嫌そうな顔をする。


「うぇ、嫌な事を思いださせるな!」


 トントンと扉をノックされた後、開いたら、そこにはコウモリの様な翼を持った青白い顔の男が立っていた。


「夜の女王様の使いとしてやって参りました。戦争前に必ず来る事だそうです。お伝えしましたよ」


 扉は閉じられ、再度開けるともう居なかった。


「「「....タイミング良すぎるだろう!」」」


 三人一斉に叫んだ。いや、ツッコミをした。


「夜の女王って誰だ?」

「うむ、獣王国オウガには王が二人いる。我が朝の王で、もう一人夜の女王がいる。夜の女王、吸血姫ルリ・ブラッドだな。使いが来たなら会うしかなかろう」


「むぅ、仕方ないのぅ」


 き、キター!ファンタジーで定番の吸血鬼、いや吸血姫か。早く会いたいとワタルはワクワクしてる。


「あ、最後にツモだ」


 最後にワタルが四暗刻スーアンコウ、役満をあがった。


「なに、もう一回だ」


 獣王テンガがもう一回やろうと言うが時間だ。みんなを待たせあるので、今回はこれでおしまいだ。


「みんなが待ってるしの。また、やる機会もあるろうて」


 むむむ、仕方ないと獣王テンガは諦めた。


「あ、そうだ。何処かに一軒家が建てられる敷地はないか?」

「それなら、部下に案内させよう」


 そして、ワタルとフランはみんなの所へ戻ったのである。


「みんなお待たせー」


 ワタルが声を掛けるとセツナがバッと抱き付いてきた。


「むー、遅かったの」


 セツナの機嫌を治すために頭をナデナデと撫でる。


「そ、そんな事をやっても許さないのよ」


 言葉の裏腹と違って尻尾がバサバサと振ってる。体は正直の様だ。


「じゃー、どうしたら許してくれる?」


 セツナの耳元で優しく息を吹き付ける様に呟いた。


「....夜、優しくしてくれたら許すの」


 周りに聞こえない様にボソッとワタルの耳元で呟くが、この周りは超人しか居ないので無意味である。


「い・つ・ま・で・抱き合ってるのよ」


 フランがワタルの耳を引っ張りセツナから離した。どうやら自分もしたくてフランは嫉妬をしてしまった様である。


「わ、悪かったから。痛いからやめて」


(後でキスしてくれたら許す)


 念話で話してきたので、コクコクと頷く。フランはそれで満足してくれた様で離してくれた。


「あ、見つけたにゃん。にゃほーい、姫様」


 向こうから手を振って駆けて来る猫耳と猫尻尾三本生えている妖艶な女の方がおり、着物を着ているが、上を着崩しておりポヨンポヨンと胸が上下にバウンドして今まさに零れそうになっている。目のやり場に困って仕方がない。


「「な、何でお前がここにいる!?」」


 セツナとグリムがここにいるはずのない者に問い掛ける。


「にゃはははは、ついて来ちゃったにゃ。てへっペロ」


 悪気が全然感じられず、舌を出し可愛いくウインクしている。


「ついて来ちゃったじゃない!お前には城の事を頼んだはずだぞ」


 グリムは説教してるが、妖艶な女の方は「にゃはははは」と笑っており反省の色を感じられない。


「大丈夫だにゃん。城の奴等は優秀だし、それに白に任せてきたらにゃん」


 ハァーと頭を抱えて、あなたというお人はと半分諦めムードである。


「フラン、この人は?」

「あぁ、こいつは妾の部下で黒猫と言う。魔族ではなく、獣妖族、獣人と魔族の中間辺りの種族なのじゃ。」


 グリムの説教が終わらない内にこちらに来て、ワタルの体を全身隈無く何か確める様に見詰めていた。後ろでグリムが騒いでおるが気にした様子は無いようだ。


「この人間、ワタルが姫様の夫かにゃ。ふむふむ、お似合いと思うにゃ。ワタル、ワタシは獣妖族で猫ショウの黒猫にゃ」


 手を差し伸べられたので握手しようとしたら、引っ張られ腕を組まれ豊満な胸を当てられ、ワタルは柔らかいと鼻の下が伸びてしまった。だって男だもん仕方ないでしょ。


「く、黒猫、ワタルから離れるのじゃ。ワ、ワタルもじゃ。鼻の下を伸ばしおって」


 プンスカと魔王とは思えない程、可愛く怒りながらも右腕と組み、周りからバレない様に後ろから足の腿をゲシゲシと蹴っている。地味に痛いから止めて欲しい。


「そうなの。黒猫はワタルから離れるの」


 セツナはワタルの左側をキープし、左足の腿を後ろから蹴っている。ダブルでさすがに痛すぎるが、我慢する。

 両方から挟まれて上は気持ち良いが、下は痛い。一様、バランスは取れてるので大丈夫だ。


「にゃはははは、面白いにゃ。ワタルには儲けさせてもらったにゃから、ご褒美をしたのにゃん」


 ジャランとお金が入ってる袋を見せる。あ、まさか....


「もしかして、俺とテンガの試合で賭け事していたかい」

「にゃはははは、ワタシが唯一ワタルに賭けたからボロ儲けだにゃん。ありがとにゃん」


 黒猫が持つ袋をヒョイとフランごと奪い去ると宝部屋アイテムルームに仕舞った。


「にゃ、にゃにをするにゃー!」

「あら、この金はワタルのお陰で手に入った物よね。だから、没収です」


 理由になってない理由に驚愕する黒猫だが、直ぐに立ち直りある提案をするのだ。


「それにゃらば、ワタシもついて行くにゃ」

「魔王城はどうするのよ?」

「白に任せれば大丈夫にゃ」


 白という子はどんな者かわからないが、可哀想に思える。


 一方、魔王城では


「はっクシュン....誰か私の噂でもしてるのかにゃん」


 白猫は書類整理やら清掃やらと忙しく魔王城内を駆け巡っている。


「ほら、お前達、ここがまだ終わっていませんにゃ」

『はっ、白様』


 部下達に次々と命令を出してるが、ある事に白猫は怒っている。

 それは、黒猫のことである。勝手に城を脱け出し、黒猫の部屋には置き手紙が置いてあったのみ。『後は頼んだにゃん』と書いてあるだけだったのだ。


「ウフフフフッ、後で帰って来たらお仕置きですにゃ。黒姉様」


 周りにいる部下達は白猫の怒りにブルッと震えるのである。

 それ以降、白猫が見回ってくる前には仕事を片付けようと皆で決心するのである。


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