7話精神と魂の狭間・再び

 フランの障壁バリアで安心だが夜の見張りをフランと交代し、ワタルは就寝した時にまた夢だと思ってた場所に再び訪れていた。


「ここは確か、精神と魂の狭間だったか。また来ることになるとは」


 キョロキョロと見渡すが相変わらず暗闇で自分の姿さえ見えない。

 どのくらい歩いたか分からないが歩いているとポウと光が見え、その光に向かって歩き続いた。


「やぁ、やはり君だったか。シズカ」


 前に会った少女に笑顔で話しかける。


「あ、あゆむ~。会いたかったよ」


 ワタル、いや、ここではあゆむだ。あゆむに抱きつくフランと瓜二つの少女シズカ。


「あぁ~、俺も会いたかったよ」

「ところで、二つプレゼントしたんだけど気に入ってくれたかな?」


 プレゼントと言われ心当たりがないワタル。


「プレゼントって何のこと?」

「あれっ、変だな。届いてないかな?刀という武器と魔法を一つプレゼントしたんだけど」


(あ、あれかーーーー!)


 名刀・桜花ロウカ闇反ダーク・アンチ魔法のことだと、これしか思いつかない。


「あーー、確かに貰いました。はい」

「ほっ、良かったよ。ちゃんと届いて」


 ホッと安心したようだ。


「まぁ~、桜花ロウカのことは昔から使ってた相棒だし嬉しかったけど....魔法は何か封印されてるみたいで使ってないんだよね」


 あっ、何か思い出したらしく「てへっ」と可愛いく舌を出した。


「えーとね、あの魔法はあゆむには強力らしくて馴染むのに時間がかかるみたい?」


(何故、疑問系?)


「それは推測だから」


(え、心を読まれた?!つうか、ただの推測かい)


「あっははは、突っ込まれた。ここは念話だから心で思った事が伝わるんだよ。...わっははは」


 どこかツボにはまったのか笑い転げるシズカ。


「まぁ~、魔法はまだ使えないけど、桜花ロウカの事は感謝してるよ」


 シスカに感謝を言うあゆむの顔を覗き込むシズカは何かを確認するようにジーっと見つめている。


「うん、その様子じゃまだのようだね」

「な、何かまだあるのか?」


 あゆむは別にロリコンではないと言い切りたいがシズカの顔が近付くとドキドキしながら聞く。けして、ロリコンではないよ?


「何でもないよ。うふふふふっ」


 何か隠してるふしがあるが詮索はしない方が身のためである。

 シズカは見た目は少女だが何かは今はまだ分からないけど、フランと同じ魔族とも違う気配で何かもっと恐ろしい存在のような気がするからだ。


「あゆむ~、来たんだから話そうよ。そうだ。外の話をしてよ。私はここから出られないから」


 あゆむ自身もこの世界きて間もないから、そんなに話題はないけど了承した。


「へぇ~、あゆむって違う世界から来たんだね。あゆむの世界の事話してよ。後ね、あゆむの言う娯楽っていうのやろうよ」


 あゆむは自分の故郷・地球の日本の事、実家の道場でやってた桜流武術の事、最初は趣味で始めてから仕事になった料理の事そして、この世界ミレイヌに来る事になった経緯を話した。


「そうなんだ。元の世界に戻りたい?」


 その質問の答えにはあゆむはもう決まってた。


「料理人の事は惜しいけど、今はこの世界に居たいと思うよ。シズカに会えたし、大事な人が出来たから」

「わ、私もあゆむに会えて...ヴれジィーよ。グスッ」


 シズカがウルウルと涙目と涙声であゆむに抱きつく。抱きついた衝撃でシズカの鼻水がベチャッとあゆむの胸にくっついた。


「ちょっ、シズカ鼻水...はい、チーーン」


 何故か持ってたティッシュでシズカの鼻をチーーンとかいだ。


「ふぅ、泣き止んだか。シズカ」

「グスッ、うん。大丈夫...急にこっちに召喚されたあゆむが可哀想で泣いたけど、グスッ、あゆむがこっちに居ると言ってくれて嬉しかったのよ....グスッ」


 悲しいのやら嬉しいのやら忙しいが結局は泣いているシズカ。

 そんなシズカを優しく撫でてるあゆむに「子供扱いしないで」と今度は怒る、本当に喜怒哀楽が激しい女の子だ。


「あ、時間が来たみたい。あゆむ、また来てね」


 まだ、話し足りないが時間が来たならしょうがない。


「あぁ、また必ず来るよ」


 光が大きくなり、眩しくて目を閉じて再度開いたら横に寝ていて今起きたようだった。

 二回目なので、精神と魂の狭間の事は今度ははっきりと覚えてる。

 まだ、自由には行き来できないので今度行ったら話すだけではなく遊ぼうと考えるワタルである。

 起きたワタルは辺りを見渡すと日の昇り初めで、おそらく朝5時頃だろう。

 朝食の準備の為、冷たい水で顔を洗い意識をはっきりさせて朝食作りをするのである。

 夕食後に用意し寝かせてたパン生地を人数分に分け、通販ネット・ショッピングで見つけたダッチオーブンに入れ焚き火の上に吊らす。蓋に炭を乗せ焼き上がるのを待つだけである。

 朝日が完全に昇る頃にパンは焼き上がり、フライパンで焼いた目玉焼きとベーコンをパンの上に乗せて朝食の出来上がりである。

 朝食が出来上がる頃に皆が起床してきた。どうやら、パンやベーコンの匂いに誘われたみたいだ。


「いい匂いだね。夕飯もそうだけど朝食も美味しそうだな。これは依頼達成したらご馳走になった分も上乗せしよう」


 リーダーのムランの提案に他の商人マイスターもウンウンと頷く。


「え、そんな悪いですよ。好きでやっていることですから」

「いいや、払わせてくれ。そうしないと、私達の気が済まない。ワタル殿の料理にはその価値がある」

「「ダンナ~、お願いしやす」」


 お金を貰うのはこちらなのに逆にお願いされてしまった。


「はぁ~、分かりました。そこまで言うのなら受け取ります」

「さすが、ワタル殿話がわかる」


 バンバンとワタルの背中を叩くムラン。信頼の証だろうが痛いのでやめてほしい。


「ご飯にしましょうか。もちろん、人数分ありますので」


 朝食を配り終わると、ムランを含め商人マイスターは驚愕した。


「な、何ですか?この柔らかいパンは」


 一口食べるとふわふわで簡単に噛み千切れる。この世界のパンというと硬い黒パンで水に浸しながら食べる代物でけして旨い物ではない。


「そして、この肉汁が飛び出る肉は!この卵は濃厚でこんな豪華な朝食は旅の途中では食べれませんよ」


 ワタルが通販ネット・ショッピングで銅貨数枚で買ったのだが喜んでいるようだし黙っていよう。


「いやはや、夕飯ならまだしも朝食までがこんなに美味しいとは思いませんでした」

「満足したならなによりです」


 朝食を食べ終わり、馬車で出発してから約半日で目的地の街であるヴレロに着いた。


「目的地のヴレロに着いたな。まずは盗賊の引き渡すのに騎士がいる駐屯所まで来てくれないか」

「分かりました」


 ワタルとフランはムランと一緒に駐屯所に行くとフランの魔法で盗賊達が浮遊している様子に騎士が驚いていた。

 フランは浮遊の魔法を解き盗賊達を騎士に引き渡した。


「お待たせしました。盗賊の一人が指名手配で懸賞金が出ていましたので、こちらをどうぞ」


 金貨50枚が入った麻袋を騎士からムランに渡され、駐屯所を出た後でムランが何の躊躇いもなく金貨の麻袋をワタルに渡してきた。


「え、受け取れませんよ」

「いや、この金はワタル殿とフラン殿の物です。私達は何もしてないのですから」


 そこまで言われて受け取らないと、ムランの面目をつぶすことになるので受け取った。


「そして、これが依頼完了の書類になります。冒険者ハンターギルドに出してもらえば大丈夫です。料理をご馳走になった分は色をつけて頂きました。ではまたご縁があれば、どこかで」


 お互いに握手をして、そして別れた。

 ワタルとフランは依頼完了の報告をするために冒険者ハンターギルドに行き、報告するとこれで依頼完了だ。

 報酬金は金貨4枚から6枚に増えていた。盗賊の懸賞金という臨時収入もあって、現在の所持金は金貨110枚程である。


「依頼は終わったし、まだムライア王国だけど王都からは離れたしこれからどうする?」


 ワタルが聞くと、フランはうーんと考え込み他に思い浮かばなかったようだ。


「とりあえず、宿に行って他の娯楽を教えてよ」


 今は夫婦になってしまったが、最初はそういう契約なのでしょうがないとワタルはため息を吐く。

 宿を見つけ入ると、やはり王都よりは綺麗ではないがそこそこ賑わいがあり客要りはあるようだ。


「いらっしゃい。泊まりかい。それとも食事かい?」

「一泊で二人一部屋頼む」

「はいよ。夕飯まで時間があるからそれまで部屋で寛いでいな。これが部屋の鍵だ」


 部屋に行くと早速、何か娯楽とフランにおねだりされ、簡単に出来る物としてオセロ(人によってはリバーシと呼ぶ)をやる事にした。

 オセロは8×8の盤の真ん中に白石と黒石を交互に置き準備完了である。

 プレイヤーは黒石と白石を交互に置いていき、自色で相手色を挟む形で置き挟んだ相手色を自色に裏返す。

 そうしていき自色を増やして最後に多いほうが勝利である。


「これもルールが簡単でいいね。お、大量に裏返せて私との差は広がる一方だよ♪」


 挑発を仕掛けてくるがワタルは引っ掛からない。むしろ、本番はここからである。


「あ、置く所がないや。パス」


 フランはまだ罠にかかった事に気づかない。ワタルはわざと大量に取られるフリをしていて、後でフランに置く場所を無くさせる作戦であった。見事にその作戦通りに運んだ。


「むっ、またパス」


 ワタルは初心者のフランに対して大人げない気もする。


「うっえぇーーん、真っ白になっちゃったよ」


 本当に大人げなく勝ったワタルである。

 夕飯の時間までオセロをやり続けて良い勝負になったところで終わった。

 結局は大人げなくワタルの全勝として今回は幕を閉じた。一瞬、ワタルは天井を見上げた。


「ん、ワタルどうしたの?」

「いや、誰かに見られてる気がして。気のせいみたいだ」


 気のせいだと頭を掻いて宿の食堂に行く。


「モグモグ、やっぱりワタルの方が美味しいね」

「誉めてくれるのは嬉しいけど、ここで言うと食いづらくなるから」


 ワタルの言う通り、フランの言葉が聞こえたのか厨房から視線を感じる。

 言ってしまった事はしょうがないと急いで食べて部屋に戻る。

 王都の宿とは違うのかお風呂はないので、タオルを濡らして軽く体を拭くと、同じ部屋なのでフランのも手伝うとそのままの流れで夜の娯楽を楽しんだ。

 記憶は曖昧だが、あの後そのまま寝てしまったのか裸のままのワタルとフランともう一人の美少女が同じく裸のままワタルの隣で寝ていたのである。




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