6話スピード
今日は指名依頼あるので、いつもより早起きでフランはまだ眠たそうだったが布団を引っ張り強引に起こしてやった。
「うぅ~、まだ眠いよ」
欠伸をしながら涙目を擦るフラン。
「今日は依頼があるんだから起きる」
まだ、眠たそうなフランの着替えをワタルが手伝った。
「ほら、腕を通して次は、足を上げて。はい、終わったよ」
これが、端から見たら絶対恐怖の象徴である魔王とは絶対思わない。
洗面所で顔を洗い、シャキと眠気が飛んだのか足元がしっかりしてきた。
「さぁ、早く食べて行くわよ」
先程の起きかけとはテンションが雲泥の差だ。さっさと朝食を食べ王都の正門前まできた。
そこには、馬が二匹ずつ繋がれた馬車が三台停車していた。
おそらく、依頼者の馬車だろう。依頼者がこちらに気付いたのか寄ってくる。
「君達が護衛してくる
「私はこのBランク
「俺はDランク
お互いに自己紹介が済むと後ろからムランの仲間だろうか声をかけてきた。
「Dランクで大丈夫なのか?」
「ハンさんの推薦だ。ハンさんを信じないのか?」
ハンの名前を出した途端、奥に引っ込んだ。
さすが、王都でギルドマスターを任されてる人だ。
相当、名前に力があるのかと認識を改めようと心に誓った。まぁ~、当分は王都には近付くつもりはないけどね。
「それで、出発したいんだが準備は良いだろうか?」
「何時でもいいですよ」
「私も~」
ワタルとフランも馬車に乗り、出発した。フランは馬車に乗ること自体が初めてでワクワクしていたが時間が経つにつれ退屈そうな態度になっていた。
「ワタル、退屈よ。何かない?」
「急にモンスターが襲ってきたらどうするんだ」
コソコソとフランは小声で言う。
「大丈夫よ。...周辺に魔力を飛ばして威嚇したから。盗賊なら分からないけど」
さすが、この世界の頂点に立つお方である魔王様だ。
それなら安心と感じたワタルはそうだなぁと考え込むと懐から紙で出来た小さな箱を取り出した。
「それはな~に?」
ワタルは箱を開け、多くの紙で出来たカードが入っていた。
「これはトランプと言って、1~13のカードが4種類で52枚+ジョーカー2枚のカードで様々なゲームをやるんだ」
この世界は本当に娯楽が少ないので物珍しいのだろう。フランはフムフムと興味深そうにトランプ一枚一枚捲り見ている。
「ふむ、このトランプとやらでどんなゲームをやるの?」
トランプは本来複数人でやるゲームが多いのだが、ワタルとフランの二人で出来るゲームとなると限られてくる。
「よし、スピードをしよう」
名前からして速さを求められる事はわかるが、どんなゲームか想像出来てないんだろう。首を横に傾けてるフラン。
ワタルがルール説明をした。トランプを赤と黒に二つに分け、それぞれ山札に置く。
最初、山札一枚を台札に裏で置き手札5枚を山札から引く、これで準備終了だ。
「「いっせーのせ」」で台札を表に裏返し、台札の数字と連続する数字を手札から相手より速く置いていく。手札は5枚になるように山札から補充する。台札にカードが置けなくなったら山札から「「いっせーのせ」」で置き再開する。早くカードがなくなったら勝利だ。
「ルールは理解したよ。ふっふふ、勝ってみせるよ」
そんなに上手くいくかな。玄人が素人に負ける訳にはいかない。いざ、勝負!
「ふっははは、遅いよ。ワタル....え、ちょっと待って!」
フランはカードを調子に乗って少し減らしすぎて、中々カードが出しずらくなりワタルが逆転してしまった。
「く、悔しいよ。もう、一回やろう」
フランが負ける度にもう一回とループするので引き際をみて、わざと負けることにした。
「よっしゃー!勝ったー」
恥ずかしい程に大声を出して喜ぶので、ワタルは他人のフリをしたいが相手は魔王である、そんなことしたらこの世界の終わりだ。フランは妻であるが機嫌を損ねて暴れだしたら、夫であるワタルにも止められる自信がない。
「おい、停まれ!荷物を全部置いていけ。お、いい女もいるじゃないか。そいつも....」
盗賊らしき集団が馬車の前に急に現れ、リーダーの男が忠告するが最後まで言葉が続かなかった。
なぜなら、ワタルに勝利した余韻に慕ってたフランが盗賊に対して不機嫌になり威圧を放ったのである。
「あーん、何だおめぇら」
フランの一睨みで盗賊全員がガクガクブルブルと震えている。
「フ、フラン」
ワタルがフランにコソコソと教える。
「え、盗賊なの。面倒だな」
フランが指をパチンと鳴らすと盗賊全員が「ぐわっ」と倒れ動かなくなった。
盗賊を倒した張本人であるフランに注目される。フラン自信は何ともない風に皆の視線に「どうしたの?」と首を傾けた。
「おい、おまえ。一体何をやったんだ?」
「え、ただ麻痺させただけだよ。まぁ~、五日間は動けないかな」
((((うわーーー、コワっ!))))
普通でしょと言いたげな表情で地味にえげつない事をするフランに退く。
「それでどうしますか?この盗賊達は」
リーダーのムランに聞くと先に何故かフランが答えた。
「このまま、ここに置いて行けば良いのでは?馬車にスペース無いですし」
((((盗賊が逆に哀れだ))))
「....出来れば、連れて行けませんか。ここに放置されてもここを通る人達が困りますから」
リーダーのムランに言われ、プランは考え込むと何か良案が浮かんだようだ。
「長いローブありませんか?まずは、盗賊を縛りあげましょう」
あ、確かにそうだと全員で盗賊全員をまとめて縛りあげた。
縛りあげたローブにもう一本結ぶとフランが盗賊に手を触れると風船のようにプカプカと浮かんだ。ローブを馬車の端に飛ばないように結びつける。
「こ、こんな....魔法は見た事ない....」
「これは闇魔法の一種である重力魔法を応用しただけよ。要は使い方よ」
フランは簡単に言ってのけるが、ここに賢者が「あり得ない」と言うだろう。それだけ高度な魔法を実施しているが本人はそういう実感がない。
盗賊の件が片付き、馬車を進め風船状態になっている盗賊が抑止力になっているのか、他の盗賊の気配はするが襲ってこない。
このまま、進んでいると日は沈み野宿する事になった。まだ、様子を見ているのだろう。盗賊の気配が消えないのでフランが障壁バリアを張り、これで急襲の恐れはなくなった。
「いやはや、フラン殿は凄いですな。ハンさんが推薦する訳だ。それで、良かったら我々の専属の護衛になりませか?」
ムランの提案にフランは何の迷いもせず拒否した。
「お断りします。私はワタルの妻で生きることに満足してますので」
隣にいたワタルの腕を組み胸を押し付けた。
「そんなに愛されて羨ましい限りですな。あっはははっ!」
「それに....私が活躍してしまったけど、ワタルも強いよ。私が魔法ならワタルは武術だから」
(いやいや、フランは魔王だから。かなうわけないって)
フランを落とせないと分かると、ムランは今度ワタルに専属の護衛にと誘ってみた。
ワタルが了承すれば、フランも一緒に付いてくる可能性大だからである。
「光栄ですけど、俺はまだまだ未熟ですから」
「そうか。残念だがまた、いつか一緒に旅をしたいものだ」
ワタルは何もしていないのに高評価してくれる。フランがご活躍したおかげだろう。
話してる内に野宿の準備が済み、ワタルはフランの
最初に大鍋にフランが魔法で水を出してもらい、そこに皮を剥き刻んだジャガイモとニンジンを入れ煮込む。
次に、玉葱と豚肉を刻みフライパンで炒めると、大鍋に入れ同じく煮込む。
ジャガイモが柔らかくなったのを確認すると
良い匂いに釣られてムランを含めて、商人マイスター三人全員がワタル周辺に集まっていた。
良い匂いでヨダレが今直ぐに垂れそうなのをジュルリと飲み込む。
「あっははは、そんなに見つめなくても、皆さんの分もありますので」
「ダンナ~、なんか悪いな」
ワタルの呼称がワタル殿からダンナにランクアップしている。
出発当時は陰険だったムラン以外の
「もう、そろそろだな」
ワタルが大鍋の蓋を開けるとグツグツと余計に美味しそうな匂いが漂う。
予め、
エコのようだが魔力が多いから出来る芸当でワタル自信は自覚がないようである。
「はいよ。出来たよ」
ご飯の上にカレーを掛け渡した。モグモグと無我夢中に食べるがカレーなので辛いのだろう。食べる度に汗が吹き出るが食べる事をやめない。
「か、辛いが辛さの中に旨さがあって、手が止まらない。ふぅふぅ、あぐ、モグモグ....」
「モグモグ....はぁ~、美味しいよ。ワタルは天才だね」
実際、故郷地球の日本でもワタルは天才料理人として、この年でとある有名料理店で副料理長を勤めていたので、カレーなんて朝飯前以前の話だが本気で調理したらどうなってしまうのだろうか。
カレーでこんなにも幸福な気持ちになってるのである。もしかしたら、昇天してしまうではないだろうか。
ワタルの実家は武術の道場をやっており、桜流という武術で今の現当主はワタルである。
ワタルにとって武術は天性の才であり、料理は後天の才だろう。
まぁ~、実際問題に武術の道場の経営だけでは食って行けないので、趣味であった料理を仕事にしたら才能開花した形である。
ワタルは自分自身武術と料理の天才だとは実感ないまま、普通に夕食の片付けをし、朝食の下準備をして寝るのであった。
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