ビター
「だぁぁあああ! うるっせー、まじで! なんでお前の麻生みたいになってんだよ、知るかよ! 子分従えてぞろぞろ机囲みやがって、両サイドなんなん? 真由香親衛隊一号二号か!」
「ちょっと茜! 静かにしなさい!」
「……」
自宅、二階自室にて。たった今枕を投げながら暴言を吐き出したところ、一階のリビングにいる母に怒鳴られてしまった。
私はベッドに大の字で顔を埋める。
「なんで私ばっかり。なんで光也なんかのせいでこんな目に合わなきゃなんないのさ」
かたや私、
「いや。下の下か」
私はカーペットに座り直し、ローテーブルに立てた鏡を見ながら頬を押さえた。
この頬。りんごみたいに赤い頬が、私のコンプレックスだった。おまけにこの寒い季節は鼻まで真っ赤になる。丸顔でつぶらな目元も相まって、小さい頃のあだ名は顔があんぱんで出来たあいつだ。
「……いい匂いする」
甘い誘惑。一階に降りれば、母がチョコレートを湯煎で溶かしていた。
「お母さんまた手作り? 毎年頑張るね」
「はあ? それあたしがあんたに言いたいセリフなんだけど。茜は今年も作んないの? チョコ、お父さん楽しみにしてるよ」
「お母さんが作ってんじゃん」
「そういうヘリクツ、誰に似たんだか」
母は丁寧にチョコを混ぜながら味を見ている。
「そうだ、麻生さんの奥さん、こないだうちの教室に道具忘れてっちゃって。茜、届けてきてくれない?」
「なんで私が! しかも麻生とか、今一番聞きたくない名前」
「なに、光也くんと喧嘩でもしたの?」
「喧嘩できるほど仲良くありません!」
「なにそれ」
母は自宅でフラワーアレンジメントの教室をしている。光也の母は生徒として週一自宅に来ており、子供たちとは違って母親同士の仲は良かった。
「ほらこれ、ついでに持って行って」
母が渡して来たのは一つ一つが金色の紙に包まれた、トリュフチョコの箱だった。
「お母さんが作ったやつ持ってかないの?」
「まさか。手作りなんて大人になって食べてくれるの、身内か恋人だけよ。友チョコっていうの? ああいうの楽しめるうちにやっときなさいよ、若者」
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