第2話 ヒーローショー開幕

『がんばれー! スターダストマーン!』

子どもたちの声援が僕の背中を押す。


「これで決めるぞ! くらえ! スターダストキーック!」


「ぐわぁぁぁ!」


ドォォォン


「よし、これで地球の平和は守られた」



「はっはっは、この程度では死なんぞ」


「なにっ、なかなかやるな。これではどうだ! スターダストブラストー!」


「ぐぉぉぉ!」


ドォォォン


「ふぅ、倒したか」



「はっはっは、お前の力はこんなものか」


「……強いな。それならこれを出すしかないか。スターダストファイナルクラッシャー!」


「ぐはぁぁぁ!」


ドォォォン


「手強い相手だった」



「はっはっは」


「いやどんだけ復活すんだよ! もういいよ!」


「えっ?」


「えっ? じゃなくて」


「やっぱり敵役は何度も復活した方が盛り上がるだろう」


「そうかもしれないですけど、ほら、時間とかもあるんで。じゃあ次で終わりにしましょう」


僕は焦っていた。このショーは夢へと繋がる大舞台。こんな頭のおかしい怪人役に邪魔されるわけにはいかないのだ。


そして僕は次の技について考えなければならなかった。


スターダストマンは星楽園遊園地特有のヒーローのため、設定が結構曖昧あいまいで、キャラクターの詳細はそれぞれの役者にゆだねられている。


こんなに長引くとは想定していなかったので、技も2、3種類しか用意していなかった。


ここからはアドリブで対応するしかない。


「いくぞ! スターダストマシンガン!」


「ぬぉぉぉ!」


ドォォォン


「いやぁ、なかなか…」


「はっはっは」


「だからもういいって!」


「いや、さっきファイナルなんちゃらとかいうすごいのが来たのに、今回マシンガンてしょぼくなっちゃってるからさ。さっきより弱そうな技でやられるわけにはいかんよ」


「……まあたしかに、それも一理ありますね。わかりました。次で決めましょう」


イライラしながらも、僕はなんとか強そうなネーミングになるよう頭を回転させる。


「スターダストアルティメットストーム!」


「ぬぉぉぉ!」


ドォォォン


「よし、倒したな」



「はっはっは」


「なんでだよ! いや、どういうつもり? 早くやられてくれ! 子どもたちの冷たい視線が辛いよ!」


「私はね、どんな小さな勝負でも負けたくないんだ」


「どこで負けず嫌い出してんだ! あんたが負けないとこのショー終わんないの!」


「わかったわかった。じゃあ最後、とっておきのを頼むよ」


相当頭にきていたが、これで最後だと趣向をらす。


「とどめだ! スターダストギガントダイナミックウルトラボルケーノォォ!」


「はっはっは」


「もう倒れもしねーじゃん! えっ、なにしてんのほんとに」


「すまんすまん。ネーミング長すぎて普通に笑っちゃった」


「長いのはおまえだよ! いつまでやんだよこのくだり」


「さあスターダストマンよ、次の技はなんだ?」


「もう技のレパートリーねーよ!」


「なんだつまらん」


僕は助けを乞おうと周囲を見回す。


「おい、時間30分も押してるって。そでのスタッフ見てみろよ。とんでもない顔してるぞ」


「そんなもん怖くて見れるか!」


「じゃあ早くやられてくれよ!」



僕はもう完全に疲れ切っていた。



「なぁスターダストマンよ。終わらせる方法が一つだけある。お前が負ければいい」


「なんだと?」


ひざまずいて、参りました私の負けですと頭を下げるのだ。そうすればこのショーは終わる」



何を言っているんだこいつは。


本当に負けるのが嫌なキチガイ野郎ではないか。


でも確かに、もういい加減終わらせたい。


お客さんからの冷たい視線、スタッフからのプレッシャー、刻々とすぎていく時間。


早くこの場から逃げ出したい。僕は怪人役に言われた通り、ゆっくりとひざまずいた。


そして頭を下げるふりをして、思い切り地面を蹴った。


どんな状況だろうと、ヒーローが悪に負けるわけにはいかないんだぁ!


「これで最後だ! シンプルにキーック!」


「うわぁぁ!」


こんなに飛べるのかと、自分でも驚くほど身体は宙高く舞い、華麗なキックが決まった。


その瞬間、小さい頃にテレビで見ていた、憧れのヒーローになれた気がした。


ゴンッ


鈍い音を立て床に頭を打ち付けた怪人役は、そのまま動かなくなった。


『はい! これで地球の平和は守られました! みんなー、盛大な拍手をお願いしまーす!』


ぱち、ぱち、ぱち。


進行役のお姉さんの声を合図にまばらな拍手が会場を包む。


『これにてヒーローショーは終了となります! みんなー、まーたねー!』


無理矢理終わらせた感は否めないが、なんとかショーは幕を閉じた。

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