東京は彼と遠い

加賀美まち

第1話 連絡


彼が死んだと知ったのは一月の成人式も過ぎた頃。電話をしてきた母親から、思い出したようにふと言われた。

「そういえば、あなたと同じ高校のーー君、事故で亡くなったって」

「そうなんだ」


そうなんだ、としか言葉が出なかった。

驚きと悲しみと実感のなさ。

温度のない言葉。

そこからの母親の話はよく覚えていない。


死、という経験は私から遠いものだった。祖父母は物心つく前にすでに亡くなっていたし、両親は健在、学校の先生や友だち、習い事関係でも亡くなった人はいなかった。

勿論、ドラマや漫画で人が死ぬシーンは見ていたしリアルだなと思っていたけれど、テレビを付ければ映画で殺されていた若手俳優が笑ってバラエティ番組に出演していたし、悲惨な死を迎えたアニメのヒロインは1番綺麗で可愛いイラストのグッズが沢山売られていた。

だから私はいま初めて、リアルな死を経験しているのだと思った。


実感、なんてものは到底なくてそもそも高校を卒業してから会ったのは高校の同窓会が最後だったし、なんなら一言も喋らなかった。

あ、いるなって思って避けてた訳じゃないけどそれだけ。向こうも話しかけてこなかった。


だから、私が覚えているあいつはスーツで少し垢抜けた20歳の姿と高校時代一緒にいた時のことだけ。あれからあいつがどう生きてたのか私は全く知らないしこれからも知ることはないだろうから、今日は、今日だけは少しだけあいつのことを考えてみる。

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