雪の送り人

浮世ばなれ

雪の送り人

「熱さは感じないんです。」

 医者の雪男ゆきおは女の子の白い手を見て驚いた。手のひらには先程まで確かに氷が乗っていた。だがほんの一〇秒程で氷が溶け始め、すぐに跡形もなく水となって手のひらから溢れ落ちた。まるで手にストーブが付いるかのような現象だった。

 実際に女の子の体温を測ってみたが、一般女性の平均的な体温で風邪では無さそうだった。医者になって一五年になるが今までこの様な現象を見たことが無い。

「いつからこんな症状になったのですか?」

「はっきりとは分かりません。ただ、昨日がちょうど大学受験の前日で緊張してたのです。夜に最後の復習だけして眠りにつきました。多分、その夢の中でだと思うんですけど、私は気づいたら北極の様な場所に居て、目の前に白い衣を着た女性が立っていました。その人が『あなたの緊張は天候に不順を来すわ。乗り越えたければテストで全力を出すことね。』と言って来たのです。」

「ふむ…そういえば今日は朝から吹雪でしたよね。まさかあなたが関係しているのですか?」

「多分そうです。」

「今日はここまでどの様な一日を送りましたか?」

「朝から受験会場までバスで行きました。その時も緊張していました。途中で雪が降ってきました。それはすぐに吹雪に変わり、やがて、バスは雪に持っていかれて動かなくなりました。何故かスマホも繋がりません。幸いバスが止まった辺りから会場まで近かったので、私は一か八かの賭けで外に出ました。外は吹雪で前もあまり見えません。既に膝の辺りまで雪が積もっていました。その中を私は踏ん張って行きました。靴の中に雪が入って来て何度か諦めようと考えました。でも、時間ギリギリで会場に着いたのです。そこからは、テストを受けて帰りました。帰り道も雪が積もっていました。気持ちに余裕が出来た私は、その雪に触って見たのです。すると雪は一瞬で溶けました。驚いた私はその後、積もっている雪に手をかざしました。すると雪が一瞬で溶けて水に変わったのです。そこで私の体がおかしくなったのだと思いここに来たのです。」

「帰り道は晴れてましたか?」

「はい。」

「雪を溶かす以外に変わったことはないですか?」

「特にありません。」

「緊張は今でもしていますか?」

「いえ、先程のテストを無事に終えることができて今はほっとしています。」

「ふーん、なるほどね。」

 科学的に前例のないことだった。雪男ゆきおはどうするべきか悩んでいた。風邪ではなく超能力的な物が開花したのだろうと考えたからだ。とはいえ、せっかくこの病院に来てくれたのだ。一つアドバイスをしよう。

「おそらくストレス性の何かだと思います。緊張した時は雪が降り、緊張が溶けたら天気が晴れる。自分の気分が天候を左右する。雪女ゆきおんなになったのです。」

雪女ゆきおんな?」

「はい、でも過度なストレスを避ければ問題ありませんよ。自信を持って生きて下さい。」

 女の子はその言葉を聞いて少し顔が明るくなった。

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