第2話 投石でも十分
前話のあらすじ。仁、転移する。
◆◆◆◆◆
「しっかし、いいとこだなぁ異世界って。気候もいいし空気がきれいだ」
俺は空気がきれいなところで吸う煙草が一番うまいと思っている。もちろん喫煙所でも吸うが、早朝の街や、自然に囲まれた場所、山頂などの澄んだ空気の中で味わう煙草は格別なものだ。
しかしこのペースで吸ってたら、数日で無くなるよな…。
そう、今一番の心配事は煙草のストックだ。あのなれなれしい声は何とかするっぽいことを言ってたが、何の説明も無く異世界に放り出された。「未知の力」ってのも何のことかさっぱりわからなければ宝の持ち腐れだ。
と、煙草をふかしながら考えているとスマホが震える。いつの間にかサイレントモードにしていたのか着信音が鳴らない。異世界にも電波が届くのか? Wi-Fiでもあるのか? と周りを見るが当然基地局など見当たらない。ポケットからスマホを取り出すとメールが届いていた。
『 やあ、異世界を楽しんでるかな?
面倒くさかったから説明は省いたけど色々スキルを与えておいたから楽しんでね。
あ、スキルって言うのが未知の力のことだから。
ステータスって言えばいろいろ君の情報が確認できるよ。
ポチっとすれば説明もあるから確認してね。
なんでステータスが見れるかとかは、そういう仕様だから。うっかり聞くと変な人扱いされるよ、気を付けてね。
それじゃあ、これが最後になるから。改めて良い異世界ライフを!』
「…、面倒くさいってなんだよ、お前は俺か。ってか相変わらず軽いよな。まあ、何も無いよりはマシか」
思わずメールに突っ込んでしまう。面倒くさいってのは共感できるが、時と場合を選べと言いたい。しかしわずかでも取っ掛かりが出来たのには正直助かったのも事実だ。
「じゃあ、ステータス」
咥えていた煙草を携帯灰皿に放り込むと、他にやることもないのでメールの通りにステータスと言ってみる。
すると目の前に半透明の四角い板状のものが現れる。何やらいろいろ書いてあるようだ。
-+-+-+-+-+-+-+-
ジン イズモ
職業:なし
LV:1
種族:人間
HP:500
MP:500
物理戦闘力:SS
魔法戦闘力:SS
スキル:
言語理解
鑑定(LV MAX)
収納(LV MAX)
全魔法
武神
全耐性
無詠唱
回復量増加(LV MAX)
獲得経験増加(LV MAX)
複写
称号:異世界からの召喚者
-+-+-+-+-+-+-+-
何やらすごそうな内容だ、ポチると説明とか書いてたよな。俺は現れた半透明の板状のモノ、面倒だなウインドウでいいか、を上から適当にポチポチと触れていく。
言語理解:あらゆる言語を理解し会話できる。読み書きも可能
鑑定(LV MAX):対象の仕様を鑑定できる。LVが上がれば鑑定可能な対象が増え、より詳細な仕様が確認できる
収納(LV MAX):接続形成された亜空間に物品の収納が可能。LVが上がれば容量が増加、収納内の経過時間の制御が可能になる
全魔法:属性に縛られることなく、あらゆる魔法が利用可能
無詠唱:魔法の発動時、詠唱を省略可能。省略による効果減少はない
武神:あらゆる武器を最高の技能で扱う事が可能
回復量増加(LV MAX):自然回復を含む回復量が増加する。LVが上がれば回復率が上昇する
獲得経験増加(LV MAX):経験値獲得時の獲得量が増加する。LVが上がれば獲得率が上昇する
全耐性:状態異常、呪い、毒に対する完全な耐性(飲み過ぎても大丈夫だよ!)
複写:任意の物体を複製する。ただし生物は対象外(これで煙草が吸い放題だよ!)
「いやはや…、大盤振る舞いだな、こりゃ。まあ貰ったもんはどうしようもないか、それに最後にふたつがな…、確かに助かるが良いのか、これで?」
明らかにやり過ぎな内容に頭を抱えそうになるが、あるモノは仕方が無いと割り切る。
そんなことより、まずは煙草の確保だな。複写ってのがどうやって使うのかわからないが鞄から1カートン煙草を取り出す。手に持ってみても眺めてみても何も起きない、そこで「複写」と呟いてみた。
すると一瞬カートンの箱がぼやけたように見え、手元にもうひとつ1カートン出現した。両手にそれぞれ持って見比べたり重さを比べたりするが、全く違いが分からない。
出現した方の封を切りひと箱煙草を取り出すと、一本加えて火をつける。
「ぷはぁ…」
うん、全く問題ないな。実に煙草が美味い、不安要素が無くなったことで美味さもさらに上がった気がする。あとはこれで大量に複写しておけば今後の不安は解消されるな。そうなると置き場所をどうするかだが、収納がここで使えると予想している。
手元に残った元の1カートンの箱を持って「収納」と呟いてみる。すると予想通り手元から消えた。なんとなく頭の中に違和感を感じたのでそこに集中してみると、『煙草:1カートン』と記載されているイメージが浮かぶ。そして1カートン取り出すことをイメージすると、問題なく手元に現れた。
ざっくりだが収納の使い方も把握できたので、20カートンほど複写して格納しておいた。
それから収納には飲み屋にあった酒やつまみの名前がずらりと並んでいた。これが最後の方に言ってたことなのだろうな。助かるが、これだけ持ってきて店は大丈夫なのだろうか? 心配しても仕方が無いとはわかっているが、なじみの店だけに少し罪悪感はある。
鞄も面倒なので収納して手ぶらになると、すっかり身軽になりポケットに煙草とライターのみという、まるで近所を散歩するかのような状態で、ふらりと立ち上がると行き先を考える。
まだ日は高いしここで吸う煙草は格別だが、さすがに夜は冷えるだろうし独りきりというのはいただけない。せめて美人のひとりでもいれば話は違うんだがな。
しかしどっちに行けばいいんだ? 周りは見渡す限りの草原で人影もない…、と思っていたが、大分先に何か動くものが見える。当てもないので動くものがある方向に歩き出すことにした。
歩きながら手元の煙草を見つつ考える。これって収納を灰皿代わりにできるんじゃないか?
なんとなく草原にポイ捨てするのは気が引けるし、いちいち携帯灰皿を使うのも面倒くさい。手元の吸い殻を収納してみたら手元から一瞬で消えた。
ってことは収納から一本ずつ取り出せるかも…、と試してみるが1カートンでしか取り出せない。
「そっか、ばらしてから収納しとけばいいんじゃないか?」
ポケットから煙草を一本取り出し、何となく複写してから収納する。そして一本だけ取り出すそうとしたら上手くいった。人差し指と中指の間に奇麗に出現できたのだ。思わずニヤリと笑みを浮かべライターで火をつける。そういえばライターも切れるとまずいな、いくつか複写して収納しておこう。
傍から見たらきっと怪しさが半端ない。しかし俺にとっては非常に重要な事をしつつ歩き続ける。
しばらくして先を見ると、どうやら動いて見えたのは馬車のようだ、2頭のおそらく馬だろう動物に引かせた幌馬車が木陰で止まっている。休憩でもしているのだろうか? だがよく見ると少し離れたところで数人争っているようにも見える。
こういう場合は弱い方を助けて恩を売るのが良いか、双方弱ったところに踏み込んで漁夫の利を狙うか、完全に無視するか。どれでもいいんだが、ひとまず俺の今の目的としてはどこかの街にたどり着きたいという事だ。つまり、弱い方を助けるのが後々メリットがありそうだな。
そう決めると手遅れにならないよう少し急ぐことにする。争っている地点に向けて駆け出す。
駆けながら思ったのだが、今何も武器がないよな。武神って武器ありきのスキルだった気がする。他は魔法だが、当然魔法など使い方を知らない! まずい、スキルを見て勘違いしていたが今の状態の俺って実はたいしたことがないかも…。
とはいえ駆け出した姿は恐らく向こうにも気づかれているはずだ。今更何もなかったことにするのはできないだろう。仕方なくその辺の転がっていた石を走りながら拾っていく。投石と考えれば石も武器扱いになるかもという、非常に心細い考えだが何も無いよりはましだ。
争っている姿が視認できる距離に近づくと、大体状況がつかめたと思う。2組に分かれ、ひと組は普段着っぽいものを着た人を守りながらの鎧を着たふたり組、もうひと組は皮っぽい鎧を着た3人組で苦戦している様だ。この状況なら前者の普段着っぽい人が後者に襲われているという事だろう。
双方武器は剣を使っている。大きさも長さも様々だが、弓のような遠距離武器は使っていないようだ。これなら近づかなければ大丈夫かなと思ったときだった。普段着っぽい人から火の塊が3人に向かって飛び出したのだ。
「さっさとくたばって、荷を寄こしやがれっ!」
どう聞いても悪人側のセリフが普段着っぽい男から火の玉と合わせて飛び出す。はい、こっちが悪者確定ですね。
慌てて3人に石を投げず良かったと胸をなでおろしつつも、さらに近づいていく。
3人は火の塊を何とかかわしたようだが、ひとり躓いて転がってしまった。その隙をつくべくふたり組が突っ込んでいく。
だがこの距離なら投石でも届く気がすると、思い切ってふたり組に向かって石を投げた。
ブンッ!
思ってたのと違う音をさせて石はふたり組の片割れに向かって飛んでいき、その勢いのまま片割れを吹き飛ばす。
「あれ? ちょっと強すぎないか?」
思わず俺は足を止めて、吹き飛んだ片割れに目を奪われる。
「何モンだてめえ! 邪魔するならぶっ殺すぞ!」
改めて見ると完全に悪人顔の普段着っぽい男、よく見ると普段着ではなくローブのような魔法使いっぽい格好をしていた。なるほど、後衛だから守られてたって訳ね。
ぶっ殺すと言われたので臆病な俺はやられる前にやっちまうことにする。まだまだ石は手元にある、ひとつ握ると今度は振りかぶって全力投球ならぬ全力投石だ!
ブゥッンッ!
なにやらさっきよりもやばそうな音がしたが気にしない。全力で投げ切った俺は的となったローブの男を見る…、見ちゃダメな奴になってました、スプラッターはあんまり得意じゃないんだよね、俺。
気を取り直して残ってるはずのふたり組のもう片割れを探すと、すでに首と身体がさようならしてた。いやぁ、異世界ってスプラッターだったんだな…。
「助かったよ、おかげで怪我ひとつせずに済んだ」
俺が味方した形になった3人組から礼を言われる。最初は君たちが悪者だと思っていた事など
おくびにも出さず俺は軽く手を振る。
「困ったときはお互い様だろ?」
話を聞くと3人はそばに止まってる馬車の護衛として雇われていたそうで、雇い主は馬車の中で震えているらしい。こういった盗賊の襲撃はわりと良くある事らしいが、今回は魔法使いがいたため結構ピンチだったとのこと。俺が走ってくるのは見えていたが、余裕は無く敵の増援でないことを祈るばかりであったという事らしかった。
俺が道がわからなくて困っていることを伝えると、快く次の街まで同行を許してくれた。実際には見た目も、まともな装備一つ持たない俺は非常に怪しいそうだが、命の恩人であることには変わりないという事で納得してくれたのだ。
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読んでいただきありがとうございます。続きも読んでいただけるよう神頼みしておきます。
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