第37話強欲で無欲な願い

「……そんなわけ無いだろ」


 確かに言われてみるとそう見えないこともない気がする。

 だがしかし、これは俺にとっては重要なプロセスであり明確に目的が存在する。

 そもそもツンデレなんて分かりやすく態度を変える奴はファンタジーか、狙ってる奴しかいない。大抵の人間は一度目に取った行動をそう安々に覆すことなどできないのだから。


「まぁ、手伝ってくれるならどっちでも良いんですけど」


「それで、何が欲しいんです? 先に質問して来なかったってことは私が実現可能な範囲なんですよね」


 物わかりが早くて助かる。

 正直、ここで金や身体的なことを冗談でも言われると反応に困る所だった。


「俺はな、今までの人生を無欲に生き過ぎて来た」

「……それ、絶対自分で言うことじゃないですよ」


 まだ話が終わってないのに茶々を入れてくる香月を、


「毎日、自画自賛してる奴は静かに」


 そう静止させると「だって私は事実ですもん」とぶつぶつ不満げにしながらも、やっと黙ってくれる。


「客観的に見た上で、控えめに言って間違いなく善人の分類に入るはずだ」


 また、何かを発しようと口を開く香月を手で制する。


「問題はその客観的に見てくれる人を自分で排除してしまって、誰も居なかったことだ」

「あのー、その話もしかしてめっちゃ時間かかります?」


 丁寧に説明しながら少しでも俺の願いをすんなりと理解させ、話すハードルを下げようとしていると早く本題に入れとばかりに急かされる。


「……たい」


 息を吸い、覚悟を決めて早口で本題を言い切る。

 耳に自信があるなら十分聞き取れるはず、そう香月を信じた結果だった。


「どうしたんです? 早く言ってください」


 しかし、下へ目線を向けるとまる聞こえなかった様子で香月は突っ立っていた。


「…………大したことない耳」


 俺は今、白けた目してるんだろうなぁ、と思いながら先ほどと同等か、それ以下のボリュームでポツリと吐いた言葉に空のペットボトルが飛んでくる。


 それを手で難なくキャッチし、自販機の横に置かれたリサイクルボックスに捨て「しょうがない」と覚悟を決めて顔を再び出した。


「――――俺はな、褒められたいんだよ」

「はぁ……褒められたい」


 呆気に取られたように脳死で言ったことを繰り返す香月、


「初めて歩いた時ぐらいに俺は今、誰でもいいから褒められまくりたいんだ。分かるか?」


 羞恥心と理性がこみ上げてくる前に心のダムを崩壊させる勢いで必要な情報を今のうちに伝えるだけ伝える。


「え……? もしかしてそれだけですか?」

「それだけ、それだけって言ったのか? それは普段から凄い凄い、良い人だってお礼を言われてる奴だからこそ言えるセリフだ」


 言葉の重みがまるで分かっていない香月に、俺は2階から今すぐにでも飛び降りるぐらいの気負いで丁寧に、詳細に説明してあげる。


「いいか? 手伝った結果、成功しても失敗してもお前は今まで俺を褒めなかった奴らの分も背負う勢いで煽てて気持ち良くさせろ。それが報酬だった」

「だった……?」

「今ので凄く気分が悪くなった。だからついでに普通の学校生活を送るための友達になれ」

 

 ちょっと上がったテンションの赴くままに口走ってしまった。

 クエストの報酬で友達を手に入れることの意味の無さ、成ったとしても段々も虚しくなってくることぐらいは友達がいない俺にも予想がつく。


「やっぱりぼっちって呼ばれるぐらいだから……それ相応の可哀そうな人生送ってるってことですよね」


 そして大方の想像通り、香月から自分より不幸な人間を見つけた時の『日常の幸せへの気づきと憐みの含んだような目』を向けられる。


「おい、その目をやめろ。少なくともお前は虐められているが、俺は虐められていない。つまり俺の方が幸せだ」

「へぇー、よく平然と嘘が付けますね。クラスメイトにプリント落とされたり、踏まれてるの知ってますよ」


 普通、嫌がらせの情報までも広めはしないだろうから、事実は後回しにしてマウントは取れると思っていたが……あっさりとバレた。

 どこかの口が軽い男が漏らしたんだろうか、馬鹿な奴。


「いじめは……本人が虐めだと思ったら虐めなんだ。なら逆も然り、あれを好きすぎる故の弄りだと俺が言えば、周りが何言おうと虐めじゃないんだよ」


 何か言い返してくるかな、と思ったが香月は反応を返すことなく、まさしく無のような顔をしていた。

 色々パターンを考えていたけど、黙られるのが一番痛いな。


「それで、いいのか駄目なのか、どっちだ?」

「あー男を付け上がらせるの得意ですし、どっちも別にいいですよ」


 少し考えるように目を右上に向けると、香月はあっさり承諾した。

 ちゃんと理解しているのか、友達の定義にズレが生じていないか、不安な所は残るが……まぁ承諾した以上、無理矢理にでも普通の学校生活を送るための友達であり続けさせよう。


「じゃ、本題に入ろう。一体何を手伝えばいい?」


 色々と長くなったがこれで気兼ねなく行動できると俺は当然、これから手伝う内容を知るための投げた。

 しかし、それに対して香月はこちらを馬鹿にしたように一笑した。


「シンデレラのお話知らないんですか? シンデレラはぁー魔法を掛けてもらうだけの女ですよ。魔法使いさん」

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