第20話拒否された表面的で偽善的な解決


 香月はもういいですよね、とばかりにカウンターに座って再びスマホをいじって話す気がないことをアピールしてくる。


「図書部員って何人なんだ?」


 『今日は自分しかいない』と言っていたから、いつも一人で図書室を回している訳ではないだろう。


「…………」


 しかし、やはりと言うか香月は聞こえないフリをしながらスマホをいじり続ける。

 無視って予想より心のダメージが大きいんだな、どうりでいじめとかでやられた方は遮断され攻撃されたと感じるわけだ。


「図書部員って何人なんだ? 聞いてる?」

「……ッはぁーーーー、15人ですよ」


 もう一度、今度は大きめの声で聞くと大きなため息を吐きながら快く答えてくれた。もう話したくないってことが分からないのかな、分からないんだろうな、とでも言うように馬鹿にした目で。

 これだけ聞いたら適当に本でも探しに行こうと思っていたが……もう絶対に明確な拒否を口にするまで馬鹿なフリをして話しかけよう。


「二人とも用事か、ついてないな」


 15人ってことは2人体制で2週間、3人体制で1週間か。この図書室の広さから考えると後者が妥当。

 そして言ってて香月の行動との矛盾に違和感を感じないほどに馬鹿ではない。二人がたまたま同じタイミングで用事がある、それは稀にあるかもしれない。


「っあ、はい……そうなんですよ、別に気にしてませんけど」


 しかし、それなら目の前にいる彼女が面倒や不満な顔を武器に同情の一つでも誘わない理由が分からない。


「ちなみに先週はどうだったんだ?」


 大体の予想はついたので確信のために質問すると香月があからさまに「ッゥ」と声を漏らし、動揺したように視線を俺や図書室で本を読んでいた人たちを行き来する。

 多分嘘をついた方があっさりと終わるが、彼らがバラすからあまり意味がないとかそんなことで押し問答していると思う。


「……友達がいない保知さんには分からないかも知れないんですけど、スマホをいじるってことはもう話したくないってことなんですよ」

「へぇ、悪いけどマナー講師みたいなデータがない適当な解釈は信じないことにしている。先週はどうだった?」

 

 話したくないことを香月は丁寧に説明してくれるが、露骨にそこだけ避けて分からないフリをすると眉を寄せながら香月が睨みつけてきた。


「…‥2ヶ月ぐらいずっと一人ですよ。これで満足ですか?」


 2か月、想像以上に長いと思ったが1か月4回当番とすると8回……うーん、もっと凄くなるかと思ったが細かい数字で見ると大したことない。

 だけどよくそんな長い期間バレずに済んだもんだ。その二人は不真面目だし将来は銀行強盗でも脱獄でもやらせたらセンスがあるんじゃないだろうか。


「その哀れそうな目をやめてください、別に気にしてませんので」


 廊下で考えていた通りにやっぱり嫌われているんだな、と思っていたら香月が心を読んだかのように嫌そうな顔をしてきた……いつかポーカーして顔へ出ないように鍛えなきゃいけないようだ。


「……我慢せず先生に言ったらどうだ?」


 軽いショックを受けつつ、どうせ悪いのはサボった側なのだからと問題解決への一番の近道を提案する。

 しかし、それが気に入らなかったようで香月が凄い形相で睨みつけて来た。


「余計なことしないでください、後で陰口言われることぐらい想像出来ないんですか? そっちは良い事をした気分で気持ちいいでしょうけどマジで迷惑ですから、やめてください」


 女の拒否は真に受けるなと言うが、この冷たい声を聞いてもそう言えるのかな。聞かなかったら普通に帰り道の途中で刺されて殺されそうだ。

 まぁ、これで解決するほど甘くはないことは分かっていた。あの性格で先生に言うのが恥ずかしい訳もなく、この提案がダメだからこそズルズルとここまで引きずっているんだから。


「もういいですか、本借りに来たんだったら黙って本でも探しに行けばいいじゃないですか」

「っぁ、そのことなんだが……実は図書部に入ることになったからどんなものか見に来た。当然、お前が入っていることは知らなかった」

「……っは? マジで言ってます?」


 最初に会って驚いた俺みたいな新鮮な表情でポカーンとした後に香月が聞いてくる。

 まぁ、会って数日で同じ部活にまで入ってきたら俺も驚くどころか裏があるんじゃないかと思うし普通の反応だな。


「明日、病院へ行って読み聞かせしますよ? どうするんです?」


 …………まじ?

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