だから彼は嫌われる
第16話仲良くなりたい片桐と朝が弱い雪宮
ぼちぼちと生徒たちが登校してきた教室に戻った後、片桐から俺へのアプローチは明らかに変化した。
どういう感じに変わったというと、
「ぼっちお菓子結構あるけど食べる? 飲み物とかも一応あるけど飲みかけだし欲しかったら買ってくるよ」
「……い、いらない」
「そっか、スマホで何見てるの? 電子書籍? ニュース? 新聞? ツイッター?」
「ラノベ……だけど」
「何てタイトルの奴?」
自分の席で座ってスマホを使っていると前の席に座りながら無限に話しかけてくる。今まで静かに放流して仲を縮めてこようとしていたのを、むやみに突いたせいで一気にダムが崩壊した感がある。
俺が悪いのかもしれないが正直……すごく鬱陶しい。それに俺にわざわざ媚びるぐらいなら好きな本命に媚びればいいじゃないか、片桐は完全に力の入れどころ間違ってるぞ。
「あ、柄山くんもいる? あげるよ」
「あ、ありがとう、雰囲気変わったけど何かあったんですか?」
柄山も当然そんな片桐に違和感を感じないわけがない。
「昔みたいに仲直りできるよう頑張るって話をしたんだ、ねっ?」
「あ、あぁ……片桐さん、変わったと思ってたけど全然変わってないんだな」
昨日の今日で数年見てないし成長して落ち着いたのかと思ってたけど、まさか一瞬して元の馬鹿みたいに高いテンションに戻れるとは思ってなかった。
いくら女の子は二面性を持ってるからって怖すぎるって。まるでさっさと普通に戻さなきゃ永遠に構い続けるぞ、と脅されているようだ。
「ぼっちはどっちがいいの? 合わせるよ?」
「え、じゃ最近の方が」
言った瞬間に片桐の笑みが少し穏やかになって、身体に落ち着きが戻る。
「ふーん、こっちがいいんだ。まぁ、あっちはテンション高くて疲れるしね」
「怖、シンプルに怖い。無理しなくても自然体が良いと思う、柄山もそう思うよな」
助けを求めるように柄山も話題に入れると「っえ、う、うん」としどろもどろに片桐に返す。
「おっはー……ってどうしたん? ぼっちくんの椅子に集まって」
聞き覚えのある声が教室のドアから聞こえる。こういう時に麻雀とか知っていたら良い例えが出来るんだけどな……どらどら? つも? とにかくダメなカード、牌が揃ったって感じだな。
「――っな」
嫌だなぁ、そう思いながらチラッと目に入った情報に思わず声が漏れた。
昨日は片桐に比べれば遥かにきちんと着こなしていた雪宮の制服が見る影もないぐらいに乱れており、胸元だけなら下着が見えてないのが可笑しいレベル。ちなみに胸のサイズはぱっと見た感じだが普通の片桐より少し控えめぐらいだった。
襲われたのか、その考えが頭に浮かんだがそう思うには本人の顔があまりにも吞気すぎた。
「……スマホで何見てんの?」
前傾姿勢で雪宮が俺のスマホを覗き込んでくるために肌と服の隙間が大きくなり、俺は咄嗟に目を離した。
「おはーって、また雪そんな恰好でっ!」
片桐がそれを見るや否や駆け寄り、手慣れた様に胸元のボタンを閉めたりスカートの位置を直してフックをちゃんと付けてあげる。
もしかして、今までちゃんとしてたのって片桐が直してたからなのか? 自分は胸元開けてるのに?
「だってメイクに10分も15分も使ってるってんだからもうそれって服みたいなもんじゃん、朝そんなに頭動かないしぃ」
メイクが服ってなんか露出狂のヘンタイみたいなことを言うんだな、そう思っていると顔に出ていたのか雪宮が片桐に直されながらも静かに俺の足を踏んできた。
テニスの時といい、料理あげた時といい、案外俺は顔に出やすいのかもしれない。やはりポーカーした事がないからポーカーフェイスを取得出来ていないせいだな。
「雪ぃ、動かない」
「ぅぅ、だってぇぇ……」
片桐に言われるとまるで自分ばかり怒られていることに納得がいかないように雪宮が俺の方を指さしてくる……彼女は寝起きだとIQが幼児レベルに低下するみたいだな。
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