第14話君が拭く理由。
おっかしいな、予想では柄山が俺の机を拭いていて親友になる流れだったのだが、今ではなぜ兄弟と心で呼んでたのかも分からない。
背中を向けながら悩んでいると、ガンガンガンと次から次に机が当たる音を響かせながら柄山が慌ててドアを開けてきた。
「ち、違うぞ、消しゴムが片桐の机の下に転がったから拾おうとしただけだ」
もっともらしい理由を言ってくるがその頬には椅子の模様がくっきりと付いていた。噂に聞くことあるが、まさか自分がその現場の目撃者になるとは思わなかったな、これがリコーダーとか体操着じゃないだけマシかもしれないが。
「まぁ、そんなこともあるかもしれないな。ところで毎日椅子に顔擦り付けてるのか?」
「いや、だからたまたまで毎日とかじゃない! 消しゴムを」
柄山は俺が言いふらすことを恐れている、しかしそれは無用の心配だ。
なぜならバレなければ傷つく奴が出ない出来事をわざわざ伝える必要は無いと思っているから。優しい嘘って奴だ。
少しフラグっぽいことを考えてしまった気がした俺は背後を振り向くが当然そこに片桐がいる訳が無い。
「まぁ、これまでのことも見逃すからもうやらない方が良いぞ」
「いや、だから今回が初めてだからって。チャンスだと思ってつい魔が差して」
おどおどした様子で柄山は否定するが、言い訳があまり得意ではないようだ。
「早く登校すればいいだけなんだから今までも何回もチャンスぐらいあっただろ」
「いや、片桐さんが俺より遅い事なんて一度も無かったから本当に今回しかないと思っちゃって……」
――それはつまり片桐が今の今まで一番に登校していたってことか? そして俺が退院した次の日から遅れたと。
これを偶然と片付けられるわけがない。だが、俺の知っている片桐はカツアゲはおろか机を拭くような面倒なこともしない人種だったはず。
しかし、柄山の言うことが本当であるなら彼女以外に俺の机を誰にもバレずに拭くことが出来た人物はいない。
「おはよー、二人してドアの前で何してるの?」
ドアを塞ぐように立っていた俺と柄山に向けて片桐が首を傾げながら聞いてくる。何て良いタイミング、丁度本人が登校してきた。
「片桐と話して時間稼ぐからお前はその間にあの椅子でも消毒しとけ」
「あ、あぁ……お前良い奴だな」
除菌シートを渡すと柄山は「ありがとう」と言いながら目をウルウルとさせる。我ながら良い言い訳だったと思う。
「片桐さん、ちょっと話があるんだけど良いか?」
「……話、かぁ」
そう話しかけると片桐は柄山を見た後に何かを察したかの様子で鞄をドアの横にゆっくり下ろした。
「うん、別にいいよ」
そのまま片桐は俺の後ろをついてくるので昨日の昼休みに校舎を回って発見した、人通りが一番少ない特別教室がある廊下へ行く。
手のひらに嫌な汗が出てくる。はぁ、しっかりしろ今更失う物もないのに緊張しても意味なんてないだろ。
「回りくどい話は好きじゃないから率直に聞くけど、俺の机を拭いていたのって片桐さんか?」
「んぅ……」
片桐は直ぐに答えず、サイドに結んだ茶髪をクルクルと指で弄りながら廊下の窓から朝練をしている生徒達を眺める。
「……どうなんだ?」
再度俺が聞き返すことでようやく片桐は小さく頷いた後に髪から指を放し、
「やっぱり……バレちゃうよねぇ。柄山くん朝来るのどんどん早くなるし」
と少し照れたような小さい笑みを浮かべた。
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