ギフト
主道 学
第1話
ファンシーなお店だった。
落ち着いて歩いたつもりなのに、店員はこちらに向かって微笑み。店内のお客も笑顔でこちらを見つめていた。
何のことはない。
クマのぬいぐるみを娘に買ってやりたかっただけだ。
別段、急いでいるわけではないのに、足が勝手に店の一番奥のショーケースに入ったクマのぬいぐるみまで早歩きをしてしまったようだ。
恐らくは一個しなかいのだろう。
店先の看板にもそう書いてあった。
早速、ショーケースの前で店員を呼んだ。
「このクマのぬいぐるみをください」
店員は微笑みを崩さずに、「わかりました」と快くショーケースに鍵を差し込む。
これで、娘の誕生日は大丈夫だ。
娘の笑顔が見えるだけで、仕事の都合でたまにしか家に帰ってこれない身としては、これ以上ない有り難いことでもある。
埋め合わせも兼ねたクマのぬいぐるみだった。
勘定を済ませ、家路につくと、外は仄暗い。
途中、一人の女性に呼び止められた。
「あの……そのクマのぬいぐるみ。私に譲って頂けませんか? お願いします」
「?」
「お店であなたは急いで買っていました。なのに、本当に悪いのですが……譲って頂けませんか?」
「これは困った。このクマのぬいぐるみは、たまにしか会えない娘の誕生日の贈り物なんだ」
「そこをどうか……」
「うーん。ぼく自身気に入っていたんだ。娘もきっと気に入ると思うんだ。可哀想だけど、ねえ?」
女性は必死だった。
目尻に涙のような光が街灯に照らされていた。
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