第35話
「ちっ…汚ねぇな…」
全てのブラック・ウルフを殺しおえた俺は、手にべっとりとついた血液を払う。
そして、呆然とこちらを見ている藍沢に近づいていく。
「え…え…?」
藍沢はなにがおこっているのかわからないようだった。
俺と、ブラック・ウルフどもの死体を見て、ポカンとしている。
「…」
俺はへたり込む藍沢の前に立って、その顔をじっと見下ろした。
「…っ」
藍沢がごくりと喉を動かした。
驚きと、それから恐怖の入り混じった視線で俺を見ている。
藍沢はどうやら俺が全てのブラック・ウルフを倒したことに本気で驚いているようだった。
ということは、俺の窮地に立たされた体の演技には気づいていなかったことになる。
よって藍沢の自己犠牲も、演技ではなく、おそらく本心だったのだろう。
「…なんで俺に助けを求めなかった?」
「え…?」
「答えろよ藍沢。俺が…あいつらに勝てると思ったのか…?どうなんだ?」
「…っ…それは…」
「正直に答えろよ。嘘はつくな」
「…っ」
藍沢がぎゅっと唇を噛んだ後に、ぽつりといった。
「ふ、二人で死ぬぐらいなら…西村が助かればいいって思って…」
「…」
「…わ、私を担いて逃げるのとかは…多分無理だから…それだったら西村だけで逃げれば…それでいいかなって…」
「…俺に助けを求めれば、自分が生きられる確率が少しでも上がるとは思わなかったのか?」
「思ったよ…思ったけど…私…西村にあんなひどいことして…い、今更助けを求めるのは…卑怯かなって…」
「…ちっ」
「ひっ!?」
俺が舌打ちをすると、藍沢は怯えたような声を出した。
「あー…ったく。面倒くせぇ…」
俺は結局この場で藍沢を切り捨てられなかったことに苛立ちながら、藍沢の前でしゃがんだ。
「ほら。捕まれ」
「え…?」
「さっさとしろ。置いていくぞ」
「い、いいの…?」
「自分で歩けるのか?」
「む、無理かも…」
「じゃあ、捕まれよ」
「わ、わかった…」
おずおずと俺の肩に手が回される。
俺が立ち上がると、藍沢は落ちないように必死にしがみついてきた。
俺は藍沢の脚を持っておんぶをして、藍沢の体を持ち上げる。
「お、重い…?」
藍沢が心配そうに聞いてくる。
「…別に」
「そ、そっか…よかった…」
藍沢がほっと安堵の息を吐いた。
レベルアップの恩恵のおかげか、藍沢の体は驚くほどに軽かった。
これならこいつをおぶったまま帰宅することも簡単だろう。
「進むぞ」
「…う、うん」
そうして俺は藍沢をおぶったまま、高校を出て自宅へと向かったのだった。
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