第12話


「なんだ…これ…?」


重々しい足音と共に何かがこちらに向かって近づいてきていた。


ズン、ズンという音が空気を震わせ、グラグラと地面を振動させる。


何かが来る。


そう感じた俺は、咄嗟に近くの物陰に姿を隠した。


「…っ」


身を潜めて息を殺す。


見つかったら殺される。


まだ足音の正体も見ないうちから、俺にはそのことが理解できた。


大声を上げて逃げ出したくなるような緊張感が周囲に漂う。


「…っ!?」


やがて、正面から、見たこともないような巨体の怪物が姿を表した。


「〜〜〜っ」


その見た目を一言で表現するな、巨大な鬼だった。


体長は3メートルほど。


胴体は図太く、筋肉がみなぎっている。


腕は丸太のように太い。


口からは恐ろしく鋭い牙が除いており、額には2本の角が生えていた。


今までのモンスターとは明らかに違う、怪物がそこにいた。


『グォオオ……』


低い唸り声を上げながら、巨大鬼は街道を歩く。


一歩踏み出すたびに、地面が振動する。


「…っ」


俺は体の震えをなんとか抑えながら、そいつが通り過ぎてくれるのをひたすら待った。


巨大鬼は一定の歩調で俺の真横を通り過ぎていったが、しかし、不意に足を止めてぐるぐると周囲を見渡し始めた。


『グォオオオ…』


低い唸り声と共に、スンスンと周囲の匂いを嗅ぐような動作をする。


「…っ」


正直言って生きた心地がしなかった。


見つかれば、少しの抵抗も出来ずに殺されるのは目に見えている。


立ち向かったり、逃げたりする選択肢はない。


俺はただ見つからないことを祈り、息を殺してその場に留まった。


『グォオ…』


一瞬にも一生にも感じた時間が過ぎた。


巨大鬼は、再び歩みを再開せた。


ズン、ズンという重い音がだんだんと遠ざかっていく。


「ふぅ…」


やがて足音が完全に聞こえなくなったところで、俺は安堵の息を漏らし、その場にへたり込んだ。


周囲を支配していた緊張感もなくなり、俺は「はぁ、はぁ」と何度も呼吸を繰り返した。


「あ、あんなやばいやつまでいるのかよ…」


しばらくして完全に呼吸が落ち着いたところで、俺はそうぼやいた。


「あんなの勝てるはずない…銃があったって…無理だ」


銃弾を何発か撃ち込んだところで、あいつにはほぼ効かないだろう。


そう確信させるほどの強い存在感が、巨大鬼にはあった。


「レベルを上げれば…勝てるものなのか…?」


ゴブリンや、ブラック・ウルフは倒せた。


だが、あいつだけはどんなにレベルを上げたところで、倒せるビジョンが浮かばない。


「はは…」


俺はこれまでどこかこの状況を楽観視していた。


モンスターを倒すことによって上がるレベル。


超常現象のようなことを可能にするスキル。


これらをうまく使えば、案外生き残れるかもしれない。


そんな安直な考えが、巨大鬼との遭遇によって完全に打ち砕かれて、俺は乾いた笑いを漏らすしかなかった。


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