第9話
モンスターが道のど真ん中で死体を漁っていたために回り道をした俺は、慎重な足取りでコンビニへと向かっていた。
もう吐き気は治ったが、反対に恐怖が全身を支配していた。
自分もいつあのようになるのかわからない。
そう思うだけで、一気に緊張し、気が引き締まる。
「…っ…こっちの道は大丈夫だよな…?」
常に周囲を確認し、モンスターの気配がないことを確認しながら進む。
モンスターとの戦闘はなるべく避けたかった。
今最優先すべきは食料の確保だ。
レベル上げやスキルのことについては、今は考えないことにする。
「出発してちょうど8分…道半ばくらいか…」
腕時計で時間を確認。
ちょうど家を出てから8分ほどが経過していた。
本来のルートで進んだならば、もうすでにコンビニについていてもおかしくないのだが、回り道をしたために、まだ道半ばと言ったところ。
後半分の道のりを、モンスターに遭遇せずにやり過ごせるだろうか。
そんなことを考えながら慎重に歩いていた矢先のことだった。
「お兄ちゃん…!助けて…!!」
くぐもった声が聞こえてきた。
いきなりのことに、俺は思わずビクッと震えて反応してしまう。
「お兄ちゃん…!こっち…!助けて…!」
「な、なんだ…?」
声が聞こえる。
俺はキョロキョロと辺りを見回した。
「あっ、そこか…!」
「お兄ちゃんっ!!こっち…!」
そして声の主を発見する。
今しがた通り過ぎた、中型車。
その中に、幼い少女の姿があった。
ばんばんと助けを求めるように窓を叩いている。
「ど、どうしたんだ…?」
見捨てるわけにもいかず、俺は車に近づいていく。
ウィーンと窓が開いて、幼い少女が顔を出した。
「行かないで、お兄ちゃん。助けて…!」
「たす…ええと、どうしたんだ?」
悲壮そうな表情を浮かべる少女に俺は事情を尋ねる。
「えっとね…お父さんとお母さん…いなくなっちゃった…」
「そう…なの?」
俺は今にも泣きそうな少女の話を聞いた。
それによると、1時間ほど前、少女はこの車で両親と共にこちらへ避難してきたが、ガソリンが切れてしまった。
彼女の両親は、ここで待っていてと少女をおいてどこかへ行ったっきり戻ってこなかった。
怖くなった少女は耐えかねて、通りすがりの俺に声をかけたということだった。
「お願い…お兄ちゃん。ミカと一緒にいて…一人はやだよ…」
「ミカって言うんだね…そっか。お父さんとお母さんがいなくなっちゃったか…」
「うん…ここで待っててって言ったのに…ミカちゃんと待ってるのに…帰ってこないの…やだよ…ミカ、怪物さんたちに食べられたくないよ…」
怪物、と言うのはおそらくモンスターのことを言っているのだろう。
「わ、わかった…ミカ。お兄ちゃんと一緒に来るか?安全な場所があるんだ」
「ほ、ほんとぉ…?」
もちろん安全な場所なんてないが、放っておくわけにもいかない。
俺はとりあえずミカを車から出すために嘘を言った。
「来るか?」
「うんっ!行く…!ありがとお兄ちゃん!」
ギュッとミカが抱きついてくる。
俺はミカを抱き上げて車から出して、それからもときた道を指さした。
「あっちへ行こう。お兄ちゃんのお家があるんだ。そこなら安全だよ」
「うんっ!!行くっ!!」
ミカを連れたままコンビニに行くわけにはいかない。
とりあえずミカを家まで連れて帰ってから、再度コンビニに向かう必要があるだろう。
来た道を引き返すことになるが…仕方がないな。
「よし、それじゃあ行こうか。しっかりと手を繋いでいてくれよ」
「うんっ!!」
聞き分けがいいミカは、小さな手で俺の指を握ってくる。
そんな時だった。
『ガルルルルルルル…』
『グルゥウウ…』
『ガルゥウウウウウウ…』
背後から複数の唸り声が聞こえてきた。
俺は背筋の凍る思いで恐る恐る振り返る。
「…っ」
果たして、そこでは先ほど死体を貪っていた黒い獣が数匹、牙をむき出しにして黄色い目で俺たちを見ていた。
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