第8話


「さて、これからどうするかだな…」


回復スキルによってクロの怪我を治療した後、俺は今後の行動方針を決めることにした。


「とりあえずは食料だよな…」


モンスターの溢れる地上でサバイバルをする際にまず必要になるものは何かと考えた時、1番最初に思い浮かんだのが食料だった。


まず食べ物がなければ、いくらスキルを習得したところで生き延びられない。


だが、両親が持ち去ったのか、家の冷蔵庫には全くと言っていいほど食料がない。


「買いに行く…いや、調達に行くか…とりあえず近くのコンビニにでも行ってみよう…」


こんな状況で、普通に社会が機能しているとは思えない。


なるべくそうしたくはないが、最悪金を払わずに調達することも視野に考えていかなくては。


「クロ…こっちにこい」


食料確保を第一目標とした俺は、早速行動を起こす。


まずはクロを家の中へ入れた。


それからリュックを背負い、金属バッドを持って玄関へ。


食料調達へは俺一人で行った方がいいだろう。


万一のことがあったときに、今の俺ではクロを守りきれないかもしれないからだ。


「じゃあ、行ってくるぞ、クロ。待っていろよ」


『クゥン…クゥン…』


俺が玄関の扉を開けて出て行こうとすると、クロが寂しそうな鳴き声を上げながら尻尾を振る。


「おいおい、なんだよその顔は…大丈夫だって。置いていったりしない。食料を調達に行くだけだから」


『クゥン…』


「よしよし」


両親だけでなく、俺からも見捨てられると思ったのか、クロが俺に体を擦り付けてくる。


俺はそんなクロを撫でて宥めてから、家を出た。



「緊張するな…」


家の敷地を出た俺は、ゆっくりと道を歩く。


目的地は、徒歩10分程度の場所にあるコンビニだった。


確か犬用の餌なども売っていたと記憶している。


俺と合わせて、クロの分の食料も調達できるだろう。


「…っ」


額をたらりと汗が垂れる。


緊張で心臓がバクバクとなっている。


相変わらず遠くからサイレンや人々の悲鳴が聞こえてきていた。


この街のあちこちで、現在進行形でたくさんの人がモンスターに襲われているのだろう。


「し、死にたくねぇ…」


部屋に引きこもっていた時は人生に絶望し、自殺まで考えた俺だったが、ここへきて死への恐怖が蘇りつつあった。


死にたくない。


モンスターに殺されるなんてまっぴらごめんだ。


なんとしてでも生き延びる。


そのために、まずは食料を調達しなければ。


「大丈夫…俺にならできるさ…」


そう自分を鼓舞しながら歩く。


「…?」


不意に前方から血生臭い匂いが漂ってきた。


俺は思わず鼻を摘み、目を細めて前方を見る。


「…うわっ」


そして思わずそんな声を漏らしてしまった。


道の先、距離にして30メートルほど。


そこで、一つの死体に黒い狼のような獣が何匹も群がっていた。


白い牙を剥き出しにし、肉を貪っている。


地面は血溜まりになっていて、死体からは内臓らしきものがはみ出ていた。


「う、うぇええ…」


思わずえづいてしまう。


グロい…


映画で見る死体とは全然臨場感が違う。


「こ、この道は無理そうだ…」


俺は吐き気を抑えながら、角を曲がって道を変えた。


少し遠回りになるだろうが、背に腹は変えられない。


「うぅ…」


俺は顔を顰めながら、大回りで目的のコンビニへと向かうのだった。



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