四季に閉じる病
池田春哉
第1話
「非常に残念ですが、
真っ白な蛍光灯に照らされて冷たく光る白衣の医師は、平坦な口調でそう告げた。ドラマなんかでよく見る宣告シーンにまさか自分が登場することになるなんて思わなかったな。
ただ、それを聞いた時の絶望というのはさぞ計り知れないものだろうと思っていたが、意外にも僕は心静かに受け入れていた。父親を四季病で失っており、いずれはこんな時も来るのではと心の底では思っていたのかもしれない。
「春って三月からなんですね」
僕の答えは正しいのか分からなかったが、ひとまずそう答えておいた。「ええ、そうですね」と医師は表情を変えずに言う。
「過去にご家族の方が四季病を患った、ということでしたらご存じだと思いますが、この疾病への対処法は現在ありません。四季病患者に配布されるマニュアルはお持ちですか?」
「はい。残りの時間をどう快適に過ごせるかをまとめたマニュアルですよね。五年前のものならあります」
「では最新版をお渡ししておきます。色々と改定してありますので。それと専用の体温計も」
「ありがとうございます」
医師は淡々と連絡事項を伝え「では、今日は以上になります」と一昨日行ったばかりの美容院の美容師と同じテンションで言った。
あまりの平静な口調に、もしかしたらドッキリだったりするのかな、なんて思いながら僕は診察室を出る。しかし受付で会計後に渡された体温計とマニュアルが確かに僕の病を証明していた。
……まいったなあ、と病院を出た僕は思う。
病院の庭に咲いた桜の木を遠目に眺める。もう桜を見るのも最後になるのだから何か感慨深くなるものだろうかと期待したが、思ったことといえば、やっぱり桜は綺麗だということくらいだった。
風が吹いて、花びらが舞う。
その風はやがて僕にまで届いたが、ただ空気が動いただけの春風は特段心地良くもない。
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