第4章

第40話 林間学校が始まりました 1

「皆さんももう既に知っているでしょうが、来週の水曜日から3日間は林間学校です。今日のLHRでは皆さんに係の担当決めを行ってもらいます」


 期末テストも終わり真夏日も増え始めた7月の上旬、俺は昼食で満腹になったことと窓から差し込む暖かい太陽の光に猛烈な眠気を感じながら輿水先生の話を聞いていた。


 この学校の1年生は毎年この時期に林間学校へ行くことになっている。

 その内容も至って普通で、登山をしたり、川下りをしたり、飯盒炊爨をしたり、バーベキューをしたり、キャンプファイヤーをしたり、あとはオリエンテーリングも兼ねた肝だめしも行われるという。

 こうした泊まりでの学校行事も転校する前の中学で受けた集団行動を学ぶためだというクソつまらない宿泊学習以来だ。


「これから今回の林間学校について書かれた冊子を配りますので前から後ろの席へ配ってください」


 そんなことを考えていると前から冊子が配られてきた。

 自分の分を確保して真後ろの生徒に残りを渡すと中を覗いてみる。

 内容は3日間のスケジュールと宿泊施設の連絡先、あとは一緒に寝泊まりする生徒や各クラスの班名簿などが書かれてあった。


 俺の班はA班、メンバーは廉太郎にアリシア、久遠、それと後ろの席の、小林幸則と上島佳音の計6人か。

 こうして見た感じ席順で適当に分けたって感じだな。


「冊子は全員分行き渡りましたね。それではこれから各班で集まって係の担当決めを行ってください」


 輿水先生に言われて俺たちはそれぞれの机をくっつけて1つの班に纏まる。


「係は……班を纏める班長と飯盒炊爨担当とキャンプファイヤーの担当、肝だめし準備担当なんてのもあるのか」

「全員何かしら係につくようになってるみたいだな。ちぇ、サボれるならサボりたかったのに」


 そんな雑談を交えながらも俺たちは誰がどの係を担当するかを相談していく。


 最終的に班長はアリシア、キャンプファイヤーの担当係は廉太郎、野外用具の設置担当は小林が、そして俺は飯盒炊爨の担当となった。

 そして最も意外だったのが……。


「みゃーちゃんが肝だめし担当に立候補するなんて意外だよ」

「そうね。わたしも京里はこういう仕事はやりたがらないイメージがあったわ」

「最初に見て興味が湧いちゃって……。ダメ、だったかな?」

「わたしはいいと思うわよ。こういうのはやりたいと思ったものをやるのがベストでしょうし」

「あたしもみゃーちゃんと同じ係になれたから万々歳だよ!」


 残る2人、久遠と上島さんが立候補したのは一番の色物枠でありちょうど2人必要となる肝だめし係だった。

 しかしよくよく思い返してみると久遠は霊的なものの専門家だ。

 それを考えるとあの係はある意味久遠に一番似合っている役職なのかもしれない。


「なあ、修、小林。【キャンプファイヤーの縁結び伝説】って知ってるか?」


 そんなことを考えていると廉太郎が声を潜めて話しかけてくる。


「伝説? なんだそれ」

「何でも最終日にキャンプファイヤーを好きな相手と一緒に見たら願いが成就するらしいんだよ」


 ……これはまた、桜の木の下で~みたいなベタな伝説が飛び出してきたな。


「で、それがどうしたっていうんだよ」

「……お前たちにはおれの一世一代の大舞台を見届けて欲しいんだ」

「お前、まさか……」

「ああ、やってやるよ。久遠さんへの告白をな! 一緒にキャンプファイヤーを見て欲しいってな!」


 あの事件で恋人(実際には本人の意思に関係なく半ば強引に付き合わされていた)と破局した廉太郎は意気消沈していた。

 そんな時に優しく話しかけてくれた久遠に、廉太郎は本気で惚れてしまったらしい。

 まあ、あの時の久遠は本当に一切の他意もなく落ち込んでいるクラスメイトを心配して話しかけただけなのだが、それを言うのは野暮ってものだろう。


「その……、なんだ。頑張れよ」

「応援はしてるぞ……?」

「おう!」


 盛大に玉砕することも将来の経験になるだろう、そんなことを考えながら心の中で合掌をしていると。


「あら、肝だめしの組分けも考えないといけないのね」


 アリシアがそう呟いたので釣られて冊子を見てみると、そこには確かに「予め班内で肝だめしの組分けを行う」と書かれてあった。

 肝だめしは2人1組で行うことになっている。

 そして各班は男女それぞれ3人ずつの計6人。男子だけ、もしくは女子だけで集まる、なんてことはできない。


 だったら。


「くじ引きで決めるのはどうだ?」

「おれは賛成」

「僕も伊織の意見に賛成だ」

「そうね。それがいいと思うわ」


 俺が提案すると班のメンバーも即座に賛同してくれた。

 こういうのはぐだぐだ話し合っても簡単には決まらないものだし、ここは運に任せた方がいいだろう。


 俺は早速ノートの使っていないページを6枚に切って3色ボールペンで印をつけると、それを手の中で混ぜる。


「誰がどれを引いても恨みっこなしだからな」

「おっけー」

「わ、わかりました……!」


 廉太郎たちは「これだ!」と思った紙を引き抜く。


「おれは……げっ、小林とペアか」

「仕方ない。これも運だ。潔く受け入れよう」


「アリシアさん、よろしくね!」

「ええ、佳音」


 廉太郎と小林、そしてアリシアと上島がペアになったのか。

 ……ということは。


「えっと、伊織君。肝だめし、一緒に頑張ろうね」

「あ、ああ。そうだな」


 まさか唯一の男女ペアになってしまうとは。

 予想外の展開と廉太郎の視線にたじたじになりながら、俺は久遠に頷き返すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る