第24話 エクストラスキルを試してみました 1

「ただいまー」


 アリシアを職員室に案内して帰宅すると、家の中は真っ暗だった。

 佳那が通っている道場は今日は休みのはずだからとっくに帰ってきていると思ったのだが。

 まあ友達と何処かで遊んでたりするのだろう、そう考えて部屋の明かりをつけると。


「……おかえり」


 佳那はリビングのソファーに全身を預けながら、疲れきった声で返事をする。


「どうした? 風邪でも引いたか?」

「……何でもない。学校でちょっと疲れることがあっただけ。少し休んだらすぐにご飯を作るから」

「そのまま休んでていいよ。今日の家事当番は俺が代わりにやっておくから」

「……ならお願い」


 こんなにも元気がない状態で家事をさせるのは流石に気が引ける。

 俺は愛用している黒い無地のエプロンをつけると夕食を作り始めた。

 とりあえず冷蔵庫に余っていた野菜とウインナー、コンソメとトマト缶を鍋にぶち込んで簡単ミネストローネに。あとはガーリックトーストでも用意しておけば十分だろう。

 と、その前に。


「すぐ出来そうだけど食べれるか?」

「……まだ無理。冷蔵庫にでも入れておいて」

「はいよ。それとちょっとしたら外に出るから留守番よろしくな」

「……うん」


 ミネストローネが入った鍋のふたに「温めなおすように」とメモを貼り、風呂を掃除すると、俺は外出の準備をする。

 そして家を出る直前にリビングに振り返ると、佳那は変わらずソファーに寝込んでいた。


「なんか買ってきて欲しいものとかあるか?」

「いい、気にしないで」


 それだけ言って佳那は目をつむる。

 念のために額に手をあてて体温を測るが、どうやら風邪を引いたとかではないようだ。

 俺は佳那に毛布をかけ、疲労に効くのかは分からないが念のために治癒魔法をかけると、改めて家を出た。





◇◇◇





 家から全力で走って十数分、1ヶ月前に久遠と出会い、そして牛鬼を討伐した山の中の空き地に出る。


「悪い。遅れた」

「いえ、大丈夫ですよ」


 空き地にはスポーツウェアを着た久遠宮里の姿があった。


「それでえっと、検証? に協力して欲しいって話でしたけど……」

「ああ、牛鬼を討伐した時に獲得したスキルがどういうものか確かめたくってさ」


 そう話しながら、俺は『ステータス』を確認する。


―――


伊織修 Lv112 人間

称号【名を冠する者を撃破せし者】

HP32000/32000

MP810/850

SP730

STR130

VIT135

DEX130

AGI145

INT140


エクストラスキル スキル貸与

スキル 鑑定 万能翻訳 空間転移魔法  認識阻害魔法 アイテムボックス 氷結魔法 治癒魔法 風魔法 水魔法 追跡・探知魔法  

身体強化 身体強化(中)


―――


 今回検証したいスキル、それは新たに追加されたエクストラスキル『スキル貸与』だ。

 事前に『鑑定』を使ってその効果を調べようとしたが、案の定その鑑定結果はざっくりとしたものだった。



―――


対象:エクストラスキル『スキル貸与』

状態:スキルレベル10/10

説明:特定の個人に保有スキルを貸与することができる。

補足:スキルレベルが最大値に達しているためexpボーナスは獲得不能


―――


 『スキル貸与』、その効果は名前通り誰かに自分の持つスキルを『貸す』ことができる、というものらしい。

 またこのスキルだけかもしれないが、どうやらエクストラスキルは初めからスキルレベルが最大値まで上げられた状態で習得されるようだ。


 さて、この『スキル貸与』はその効果からも分かる通り1人で検証を行うことができない。

 というわけで今回『スキル』と『ステータス』について知っている久遠にも来てもらった。

 それに今回の検証は単に『スキル貸与』について詳しく調べること以外の目的もある。


「それでそのスキル? はどういったものなんですか?」

「簡単に説明すると誰かに『スキルを貸せるスキル』、かな」

「……なるほど。それで私を呼んだのですね」

「察しが良くて助かるよ」


 久遠に説明しながら俺は検証の準備を始める。

 今回彼女に『貸与』する予定のスキルは先日新たに習得した『身体強化』と『身体強化(中)』だ。

 どちらも瞬間的に身体能力を向上させることができるスキルで、消費MPと能力の向上率以外に違いはない。


「……よし」


 俺は久遠をまっすぐ見据えて、手を伸ばす。

 まずは『身体強化』から貸してみることにしよう。


「『スキル貸与』」


 スキルを発動すると、一瞬だが久遠の体を淡い光が包む。


「何か体に違和感は?」

「特には何も……。それでこの後は?」

「俺が合図をしたら頭の中で『身体強化』と強く念じて、その後に思いっきりジャンプでもやってみてくれ」

「わかりました」


 その間に俺は改めて自分のステータスの確認を行う。


―――


伊織修 Lv112 人間

称号【名を冠する者を撃破せし者】

HP32000/32000

MP790/850

SP730

STR130

VIT135

DEX130

AGI145

INT140


エクストラスキル スキル貸与

スキル 鑑定 万能翻訳 空間転移魔法  認識阻害魔法 アイテムボックス 氷結魔法 治癒魔法 風魔法 水魔法 追跡・探知魔法  

身体強化 身体強化(中)


―――


 『スキル貸与』の消費MPは20か。『身体強化』の消費MPが5であることを考えると中々に重たいな。


「それじゃ始めてくれ」

「……はい!」


 久遠は目をつぶって集中すると、地面を大きく蹴る。

 彼女の体はまるでアクション映画の1シーンのように宙へ舞い上がった。


「わわっ!?」


 まさかここまで大きくジャンプできるとは思っていなかったのだろう。

 久遠は僅かにバランスを崩しながらも何とか着地する。


「大丈夫かー?」

「はい! 大丈夫です!」

「あまり無理はしないように。それと――」


 そこで俺は自分の『ステータス』に起きた変化に気づく。

 


「……久遠、もう一度さっきと同じ感じでスキルを使ってくれないか」


 久遠は頷くと、もう一度『身体強化』を発動してジャンプする。

 もう感覚が掴めたのか、今度はバランスよく着地できたようだ。


 しかし俺の関心はそれとは別にあった。


―――


伊織修 Lv112 人間

称号【名を冠する者を撃破せし者】

HP32000/32000

MP780/850

SP730

STR130

VIT135

DEX130

AGI145

INT140


エクストラスキル スキル貸与

スキル 鑑定 万能翻訳 空間転移魔法  認識阻害魔法 アイテムボックス 氷結魔法 治癒魔法 風魔法 水魔法 追跡・探知魔法  

身体強化 身体強化(中)


―――



「……MPが減っている?」

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