第25話 エクストラスキルを試してみました 2

「……どうかしましたか?」


 『ステータス』を睨んでいると、久遠が心配そうに話しかけてくる。


「いや、何でもないよ。そんなことよりもう少し『身体強化』で遊んでもらってもいいかな?」

「? わかりました」


 そう言うと久遠は再びスキル『身体強化』を使って普通では出来ないような動きを色々試し始めた。

 さてと。


―――


伊織修 Lv112 人間

称号【名を冠する者を撃破せし者】

HP32000/32000

MP765/850

SP730

STR130

VIT135

DEX130

AGI145

INT140


エクストラスキル スキル貸与

スキル 鑑定 万能翻訳 空間転移魔法  認識阻害魔法 アイテムボックス 氷結魔法 治癒魔法 風魔法 水魔法 追跡・探知魔法  

身体強化 身体強化(中)


―――


 やはり久遠が『身体強化』のスキルを発動する度に俺のMPが消費されている。

 元々そういう仕様なのか、あるいは彼女、というか俺以外にはMPという概念自体が存在しないからなのか。


「……あれ?」


 そんなことを考えていると、久遠が突然動きを止める。


「どうしたー?」

「その『身体強化』が使えなくなって……」

「? もう一度試してくれ」

「わかりました」


 そう言って久遠は目をつむって意識を集中させながらスキルを発動しようとするが、俺のMPは減少しない。


 どういうことだ? 俺のMPは尽きていない。


「久遠、一度こっちに戻ってきてもらってもいいか?」

「わかりました」


 戻ってきた久遠に再び『スキル貸与』で『身体強化』を付与する。

 すると最初にスキルを発動した時と同じ光が彼女の体を包む。

 それを確認すると、俺はもう一度『スキル貸与』を発動させて『身体強化』を試みる。


『error。スキル貸与の効果は既に発動されています』


 すると半透明のディスプレイにいつかどこかで見たメッセージが表示された。


「どうかしましたか?」

「悪い、その場から動かずに『身体強化』を出来る限り発動してもらってもいいか?」

「えっと……、はい!」


 指示の意図が読めないのか、久遠は困惑しながらもスキル『身体強化』を発動する。

 今度はちゃんとMPが消費され始めた。


 それからも徐々にMPが消費されていくのだが……。


「あっ!」


 暫くするとMPの減少が止まる。

 もしかしてこのエクストラスキルには時間制限のようなものがあるのか?


「そう旨い話はない、か」

「何か分かったんですか?」

「ああ、どうやらこいつには時間制限があるらしい。多分だけど『身体強化』は15分程度しか貸すことは出来ないみたいだ」

「……そうなんですか」


 なら次はこの時間制限が一律なものなのかを確かめてみよう。

 次に『身体強化(中)』を貸与すると、久遠に先ほどと同じくその場で連続してスキルを発動するように指示をして、ステータスと買い換えたばかりの腕時計の両方を確認しながらその様子を見守る。


「ダメです。発動できなくなりました」


 今度は10分も経たない内にMPの減少が止まってしまう。

 どうやら取得に必要なSPが大きいスキルほど貸与できる時間は短くなるようだ。


 それじゃ次の検証を、と思ったが時間が時間だ。そろそろ引き上げるとしよう。

 と、その前に。


「久遠、一応『ステータス』と念じてもらってもいいかな」

「『ステータス』、ですか?」

「ああ。軽く念じるだけでいいから」


 久遠は意識を集中させて『ステータス』と念じ始めるが、しばらくすると諦めたように首を横に振った。


「……ダメです。いくら『ステータス』と念じても何も出てきません」

「そう、か」


 そう答えると、俺は久遠を対象に『鑑定』を発動する。


―――


久遠京里 人間 16歳

状態:健康

補足:なし


―――


 『鑑定』によって表示された情報にはどこにもレベルやスキルといったものはない。

 このエクストラスキル検証の一番の目的、それはスキルを使えばレベルとステータスを手に入れられるのではないかという考えを確かめるだった。


 だが今回集められた情報から推察するに、どうやらレベルやスキル、ステータスは俺にしか扱えないもののようだ。


「時間も時間だし今日はこれで終わりにしよう。駅前まで送っていくよ」

「そ、そんな、1人で帰れますよ」

「いやいや、こんな夜中に女の子を山奥から1人で帰すなんて出来ないよ。それに送ると言っても『空間転移魔法』を使ってパパッと飛ぶだけだし」

「……そう、ですか。ならよろしくお願いします」


 「送る」と言うと久遠は照れた表情を浮かべて遠慮するが、『空間転移魔法』を口にすると途端に残念がった表情になる。

 まあいいか。


「それじゃ適当に服の裾でも握っておいて」

「わかりました」


 そういえばこうして誰かと『空間転移』するのは初めてだな、などと考えながら俺はスキルを発動させる。


「『空間転移魔法』」




 一瞬の暗転の後、目の前に広がる光景は暗い山奥からネオンの光が差し込む駅前の繁華街の路地裏へと変わった。

 隣には目をつむっている久遠の姿が。


「おーい、着いたぞ」

「ほ、本当ですか……?」


 恐る恐る瞼を開けると、久遠は大きく息を吐く。

 本当に今更だが突然別の場所に転移されるって中々に怖いことだよな……。


「ここからの道は分かるよな?」

「……はい、大丈夫です。送ってくれてありがとうございました」

「はいよ。それじゃまた――」


 そう言って久遠と別れようとしたその時、暗い路地裏の奥を他校の女子生徒が歩いていることに気づく。

 あれ、あの子どこかで会ったような……。


「すみません。一緒に今の子を追ってくれませんか?」

「いいけど、理由は?」

「あの子から妖気に似た気配を感じたんです。もしかしたら牛鬼の残党か、それかまた別の妖魔と関わっているのかもしれません」

「わかった。ならすぐに追いかけよう」

「……ありがとうございます」


 俺は自分と久遠に『認識阻害魔法』をかけると、あの女の子が消えた路地裏の奥へと進む。


「ここに入っていたのでしょうか?」

「多分な」


 その先にあったのは3階建ての寂れた商業ビルのような建物だった。

 

「扉は、開いてませんよね……」

「だったらもう一度転移するだけだ」


 俺は久遠の肩を掴むと、『空間転移魔法』を発動させて建物の中へ転移する。


「? どうかしたか?」

「……な、何でもありません。そんなことより早くあの子を追いかけましょう!」


 そう言って久遠は俺を置いて足早に建物の奥へと向かう。

 突然どうしたのだろう、と疑問を抱きながら俺は久遠の後を追った。



 建物の内部に明かりはついておらず、どの部屋も開けっ放しで埃まみれだ。そして単純に部屋の数が多い。

 これは探すのも一苦労だなあ、と考えていたのだが。


「この部屋でしょうか……」

「ああ、多分そうだろうな」


 廊下の奥を突き進むと僅かに明かりが漏れ、扉が閉められた部屋が現れる。


 さあ、鬼が出るか蛇が出るか。

 久遠とアイコンタクトを取り、手をタオルで包むと、その扉をゆっくりと慎重に開く。



「……なんですか、これ」


 そこには異様としか言い表せない光景が広がっていた。


 無機質な部屋の中央に対面になるように置かれたソファー。

 そこに虚ろな目で座る合計12人の男女。

 彼らは一切口を開くことなく、ただ無言で対面の相手の顔をじっと見つめていた。



 そんな彼らを眺めている内に、俺はあの女の子に抱いていた既視感の正体をようやく知ることになる。


 間違いない。あの子は、呆れるほどに見せられた廉太郎の彼女さんだ。

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