第4話 スキルの検証を始めました 1

「シュウ、起きてるかい?」


 扉の向こうから聞こえてくる父の声で目が覚める。

 窓の外を見ると眩しい太陽の光がカーテンの隙間から射し込んでいた。

 昨日家に帰って『空間転移魔法』を使った時は夕方だったはず。

 とするとこれは……。


「シュウ?」

「あ、ああ! 起きてるよ」

「昨日はずっと眠ってたけど体調は大丈夫か?」

「……うん、多分大丈夫」

「分かった。それじゃあ父さんは仕事に行ってくるからあまり無理しないようにな」

「りょーかい」


 そう答えると父が階段を下りていく音が聞こえる。

 やはりどれだけレベルが上がっても安全マージンを確保しておかないと昨日のように昏倒してしまうか。


「と、忘れてた」


 俺は部屋の隅に置いてあるゴミ箱を覗き込む。

 そこには確かに昨日転移させた空のペットボトルがあった。


「『ステータス』」


―――


伊織修 Lv13 人間

HP370/370

MP115/125

SP20

STR11

VIT12

DEX13

AGI11

INT11


スキル 鑑定 万能翻訳 水魔法 風魔法 空間転移魔法


―――


 おお、レベルが一気に13まで上がっている。

 とりあえずこれでレベル上げの目処はついたと考えていいだろう。

 となると次の問題は……。


『ぐう』


 そこまで考えたところで俺の胃袋が悲鳴を上げた。

 ……そういえば昨日の夜から何も食べてないんだよな。

 仕方ない。続きは朝飯を食べてから考えよう。


 そう考えて部屋から出ると……。


「お」

「あ」


 ちょうど同じタイミングで隣の部屋に入ろうとしていた妹の佳那と出くわす。


「お、おはよう。佳那」

「……おはよう」


 挨拶をすると佳那はどこかブスっとした表情で部屋に入ると、「バンっ!」と音を立てて扉を閉めた。

 俺が入院している間に色々と迷惑をかけてしまったからな。嫌われるのも無理はない、か。


 少し落ち込んだ気分でリビングへと向かっていると、ドアが開けっ放しの洗面所が目に留まる。

 父さんか佳那のどちらかが閉め忘れたのだろうと考えて、代わりに閉めておこうとドアに手を掛けようとしたその時、ふとある考えが頭に浮かんだ。


 洗面所から繋がっている風呂場、あそこなら昨日習得したスキル『水魔法』を存分に試せるのではないだろうか。

 そう考えた俺は早速靴下を脱いで風呂場に入る。

 と、その前に一応確認しておかないとな。


「『鑑定』」


―――


対象:スキル『水魔法』

効果:魔力を用いて水を出現させる

状態:スキルレベル1/10

補足:


―――


 表示された情報は何ともまあざっくりとしたものだった。

 これは実際に使ってみないと詳しいことは何も分からなさそうだな。


「……『水魔法』」


 俺は2階にいる佳那に聞こえないように小さな声でスキルを発動させた。

 すると手のひらに小さな水球が現れ、そこから水鉄砲のように細い水が風呂桶に向かって放射線を描いて放出される。


 ………何だか思っていたよりもしょっぱいな。


「『ステータス』」


―――


伊織修 Lv13 人間

HP370/370

MP105/125

SP20

STR11

VIT12

DEX13

AGI11

INT11


スキル 鑑定 万能翻訳 水魔法 風魔法 空間転移魔法


―――


 MPの消費量は5とかなり少ない。いやこのショボさから考えるとむしろ多い方なのか?

 便利そうなスキルだと思って習得したんだが、失敗だったかな。もっとこう鉄砲水のようにブワっと水が噴き出すと思ったんだが。

 そう思っていると……。


「うわっ!?」


 突然水球が俺の体ほどに大きくなり放出される水の量が格段に増える。

 その様は俺がイメージしていたものと全く同じだ。それと同時に疲労感や倦怠感のようなものも感じ始める。


 慌てて水魔法の発動を止めると、水球は「バシャン」と大きな音を立てて破裂した。

 その光景を尻目に俺は改めて『ステータス』を確認する。


―――


伊織修 Lv13 人間

HP370/370

MP55/125

SP20

STR11

VIT12

DEX13

AGI11

INT11


スキル 鑑定 万能翻訳 水魔法 風魔法 空間転移魔法


―――


 さっきは5しかMPを消費していなかったのに今度は一気に50近く消し飛んでいる。


「……『水魔法』」


 俺は最初に発動した時をイメージして再び水魔法を発動させる。

 その上でもう一度ステータスを確認すると……。


―――


伊織修 Lv13 人間

HP370/370

MP50/125

SP20

STR11

VIT12

DEX13

AGI11

INT11


スキル 鑑定 万能翻訳 水魔法 風魔法 空間転移魔法


―――


 今度はMPが5しか減っていない。

 ……これはどういうことだ?


「ねえ」

「っ!?」


 そんなことを考えていると突然声をかけられる。

 振り返るとそこには佳那が呆れた様子で立っていた。


「凄い音がしたけど、何してたの?」

「あー、寝惚けてシャワーを……」

「……体に何かあったわけじゃないんだよね?」

「あ、ああ。それはもちろん」

「……そう、ならいいんだけど」


 それだけ言うと佳那は出ていってしまう。

 何だかんだ俺のことを心配してくれているのだろうか?


 と、忘れてた。朝ごはん食べに行く途中だったんだ。


 スキルのことは一旦頭の片隅に置いて、俺は改めてキッチンへと向かうのだった。


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