「出れない大人(こども)と僕(わたし)」
いおり、隔絶された海原(わたのはら)に、共生組合の夏の1日
腰の高さの水。暗い空の色を映す海水。
でも。『ここ』は。
あの
それをもって母は僕が「踏み越えてしまった」と形容した。最初の内はあまり気にもしてなかったけど、
日本の神話は『神』と『人』の
創世神話から
でも。
そこからの記述は『神』が『人のように』他のまつろわぬ『神』たちを平定していく話だ。神の時代の話ではあるけれど、その中で描かれる神々は何処か『人間』のようで。読んでいる内に一体、『神』の話なのか、『人』の話なのか分からなくなる時がある。まあ、あくまで僕の読みではあるけれど。
『人』の歴史の
そして天武天皇の時代を経て、
「信じてもらえなきゃ、神では
かく
「人の想像力が神を生んだ…神は人であり、人は神である―」
これは僕の感想だ。あくまで僕の世界観。
別に人が偉いとか言いたい訳じゃないし、神が愚かだとも言いたい訳じゃない。
ただ、私があって『他』がある。その『他』は人かも知れないし神かも知れない。
でも、そんな事はどーだっていい。あるがままをあるがままに理解する、もしくはそう努める。それが大事で後はおまけ。
よって。
異常な事態に出くわそうが、ニュートラルに事に接する努力はしている…つもりなのだけど。
いやあ。まさか―
頭を天に向ければ、濃い紫のような夜空。そこには
僕は山の神の方に縁がある。海の方はとんとない。コネが無い。だから、もし、ここで人ならざる何者かと
まったく、もう。勘弁して欲しい。さっさと帰しても欲しい。これが夢だったらいいのに―と思わざるを得ない。
でも。これは間違いなく現実だ。僕にとって。僕から開ける世界は『ここ』を
「ケータイ…」そう。スマホ。確か
嫌な予感と言うのは的中する。僕の場合は体感8割だ。勘が良い訳じゃないし、不幸な星の
そう。僕のスマホさんは―水没していた。ポケットから取り出した文明の利器は完全に
さてさて?んじゃあ、どうすんべ?外部との連絡法は絶たれた。となると―諦めて探索をするしかないのだ、体力を食わない程度に。
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「今度、訪問活動付き合ってくれない?」と長田さんは昼ご飯のおにぎりをほおばりながら僕に言う。
それは夏の日の事。スーパーでのバイトを終え、共生組合の事務所のある部屋のリビングで昼ご飯を食べ終えてダラダラしていた時の事だ。
「訪問活動に僕が帯同?どうしたんですか?そんなアレな現場なんすか?」訪問活動は一筋縄でいかない事が多い。その手の話は良く聞いている。でも基本的に長田さんの
「ん?まあ…アレっちゃアレかな」と長田さんは
「えー?嫌っすよ…僕には荷が重い…」薄情な物言いに聞こえるかも知れないけど、安請け合いする方がかえって迷惑になると思う。
「そんな事はないさ。君なら任せられる」おおう。そういう風に言われると断り辛いじゃないか。
「時間がねぇ…取れますかねえ」僕のバイトは週5で時間は午前中一杯。時間がその辺ならほぼ断れる。
「大丈夫!昼間に行くから…15時以降になるかな?」長田さんはやんわり退路を断つ。
「ミケツさんの散歩、結構歩くから時間かかるんですよ?いやあ、忙しい」当のミケツさんは事務部屋で安藤さんに『何か』もとい『調教』されている真っ最中だ。ここには居ない。
「ミケツさんの散歩か…僕から
「…じゃあ。お受けします」僕は
「いやあ。助かった。相手さんが女の子でねえ」それは珍しい。ウチは結構男の人の比率が高いのだ、その手の活動をする相手は。
「へえ?いくつ位の方ですか?」と僕は聞いてみる。
「ん?28って言ってたかな?何にせよオッサン
「安藤さん…は留守番とかしなきゃですしねぇ…」
「そ。柿ちゃんもいるけど―アイツ、女の
「僕と安藤さん以外の女の人、全然ダメっすもんね。柿原さん」
「いい加減慣れて欲しいけどね…」と諦め半分の口調で長田さんは言う。
「まったくです」
かくして。僕は長田さんの訪問活動に着いていく事になった。行先は福岡の北東方面、北九州に至らない辺り。市的には
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夕食時。キッチンでは柿原さんがせっせと料理中。僕は手が
「そーれーはー」と僕の後ろから声。久井さんだ。というか考えを読まれてない?
「それは?もしかして―久井さんのお土産?」と僕は背中越しに尋ねる。
「そ。この時期は―肉屋的には焼肉シーズンやねん」
「後はバーベキューとかもあるだろうねえ」と僕は返す。
「んで、ウチの肉屋では、牛肉をスペックっていう部位ごとにカットして真空パックされたのを仕入れて、スジ引きして
「ああ…牛スジってそうなんだ」知らなかった。と、いう事は?
「ついでだから言うと、おでんの牛すじ串はメンブレンっていう牛の
「ふぅん?じゃあ、久井さんトコロのは筋肉の
「そうそう…だからまあ、量は限られてくる。筋引きした肉の量に比例するからな。冬はもうバカ売れするんだわ、コレが」
「時期だもん。煮込みの」
「ところがぎっちょん。夏はもー売れへん。めちゃ余る。結果、俺たちの胃に収まる訳」
「なるほど。サンキュー肉えもん」と僕は久井さんのバイト先の店長の名をあげ感謝する。肉えもん…まさしくまん丸くて人懐こい笑顔が素敵なおじ様なのだ。まあ、久井さんには厳しく接しているみたいだけど。
「いやあ…まさか夏にどて仕込む事になるとは思わなんだ…」と僕らの話を聞いていた柿原さんは牛スジの下ゆでをしながら言う。
「食材費浮いたからええやん?ついでにツマミとしても優秀」と久井さんはむくれつつも言う。
「そりゃ道理だわ。ビールだな」と柿原さんは顔を潰して笑う。
「ちょっとー?未成年もいるんですけど」と僕はツッコミを入れる。まだ19にもなってない。酒が
「ま、そういうお前向けに炊き込みご飯作るから勘弁してくれや」と柿原さんは言う。
「おっ…それは美味そうですなあ」どてのこってり具合なら
「うむうむ…楽しみやねえ」と久井さんは言う。彼は酒呑みでもあるがご飯も良く食べる。甘い物も大好きだ。太らないのが不思議。
「そういえばさあ…」と僕は柿原さんとキッチンで
「ん?
「アレな。済まんな。俺が女ダメなばっかりに」と柿原さんは謝る。
「めんどーな事になっちゃいましたよ…」と僕は言う。実際、気が重くてしゃあないのだ。
「俺、行った事無いから分からんなあ。ま、自分自身の時はアレやってんけど」と久井さんは言う。確か佐賀のお爺さんの家に居た時に長田さんの訪問を受けているはずだ。
「うーん。相手によりけりなんだけどな」と柿原さんは洗ったコメと各種調味料や具を合わせながら言う。
「ですよねえ。前、ブービートラップ仕掛けられた、って長田さんから聞きましたもん」
「そりゃ
「んなアホな」と久井さんは言う。僕も同意見。まず出てくるのが異常だと思う。悪いけど。
「ほれ、ウチのジェントル・ジャイアント―
「おお。長老がどないしたって?」と久井さん。
「あの人、長田さんの訪問に丁寧に応対したらしいぞ?まあ、調子のいい時だったからだが」と柿原さんは
「ああ…今何か想像出来たわ。アレやろ?『まあ、茶でも飲みなされ』とか言ってんやろ?」と久井さんは石田さんの物真似を交えながら言う。そのモノマネは似ている。
「そうそう。まあ、寮に入って調子崩してからが大変だったが」と柿原さんは懐かしそうに言う。
「あの人、調子崩すと宇宙に旅立つもんなあ…」と久井さんは言う。僕も見たことがある。その時の石田さんは完全に外界を拒絶し、内面に
「あーあ。明日、なるたけコミュニケーションできる人の訪問だと良いんだけど」と僕はため息
「ま。そう言ってやるな。こっちも大変だが、あっちはあっちで大変なんだぜ?その
「そそ、俺かて長田さんとリアルファイトしたし」と久井さんは言う。しかし、マジで?長田さんがバトル?
「あの人、学生時代はレスリングしてたからなあ」と柿原さん。知らなかった。
「むちゃ強かったわ…タックルで沈められたもん」と久井さん。ヤンキー
「まあ…頼まれごとだから善処はしてきますわ…あ、そうだ、明日ミケツさんの散歩頼んでいいかな、久井さん?」と僕は話を締める。
「ん?暇だし良いぜ?」と久井さんはあっさり頼まれてくれた。
寮生たちは夕ご飯の時間になると、事務所が入った部屋に集まってくる。ここは共有スペースで夕食の会場なのだ。いちいち
で。
集まって来たのは…まず、ジェントル・ジャイアント石田さん。今日は調子が良い日で僕にも話しかけてくる。
「お疲れさん…宇賀神君。最近は儲かってますかな?」そういう石田さんは笑顔だ。人当たりが良い方でもある。
「ボチボチでんなあ…石田さんは?」と僕は尋ねる。
「僕ぅ?哲学書読んでたら一日が終わってたよ」と彼は言う。案外に読書家でいらっしゃる。
「哲学…難しくないですか?」
「ん?プラトンの対話系は案外読めちゃうよ?理解できるかは別として」と石田さんは相変わらずの笑顔で言う。
「ああ。ソクラテスのアレ」と僕は言う。師ソクラテスの言行は弟子プラトンが作品にして残している。平易な対話で構成されるそれらの著作は哲学の入り口として優秀だ。逆にプラトンの弟子のアリストテレスの作品は…まあまあ
「そそ。『ソクラテスの弁明』と『クリトン』ね」
「裁判で裁かれたソクラテスが
「友人のクリトンはソクラテスを説得できず…それでお終い」と石田さんは引き取る。
「何と言うか…屁理屈おじさんですからね、彼は」と僕は言う。その辺少し石田さんチックでもある。
「そうだね…妙に親近感があるのは何でかなあ」と石田さんは
「…似てるからじゃないすか」と僕は言ってしまう。失礼だっただろうか。
「かも知れん。ま、僕は今のところ
次に現れるは―
イヤホンを耳に突っ込んでの登場。どうやらデモを煮詰めてる最中らしく、僕には目もくれず、もくもくと晩御飯を食べている。
3人目。古河さんの同居人の元大学院生の
彼は人当たりは微妙。ゴーイング・マイウェイの
続いて4人目…はギャンブラーこと
「うっすー勝っちったわあ…みんな、お土産ですぞー」とお菓子とか煙草とかを食卓に広げる。僕もおこぼれ
「まーた、打ちに行っちゃったんすか?橋本さん?」と僕は言う。この人、一応ギャンブルを周りから止められているのだ。
「だからね。クチ止め料なんよ。これは」と土産を指しながら言う。いや、スタッフの柿原さんも居るんだけど…煙草を貰ってホクホクしてらっしゃる。
「長田さんにチクられたら―えらい目
「バレなきゃヘーキだって」とオシャレな坊主ヘアーを
「ハッシーや」と柿原さん。
「ん?何よ柿ちゃん?」彼らは歳が近いせいか、気楽なやり取りをする。
「明日長田さんにチクるわ」と無情な宣告を柿原さんは下す。
「いや、ぬわんでぇ?
「土産だべ?
「っち。ま。しゃーない」と諦めた橋本さん。
「後、安藤さんにも言う」とトドメを刺す柿原さん。
「げ」青ざめる橋本さん。何故か?安藤さんは『駄犬』の『しつけ』が大得意。恐怖の
「せいぜい反省するこった」柿原さんは言う。
んで…最後は久井さんの相棒こと
「もうね…最近、夜中がアレだわ」と久井さんはウンザリした口調で言う。
「ああ…例の」と僕は言う。彼は―筆が乗ると独り言が凄いのだ。それはまるで―
「洋物のポ●ノじゃねーんだから勘弁して欲しいわ…寝れん」と久井さんは目の下にできたクマをさすりながら言う。
「お疲れ様です…」としか言いようがない。
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僕は夕ご飯を食べ終わると、共有部屋を後にし、自分の部屋に戻った。2階の6号室。洗濯物を取り込むと、部屋でダラダラしていたミケツさんと遊ぶ。
「おうおう!俺と引っ張りあいっこしようってかァ?来いや、いおっちゃん」
「手加減してよね…君、力強いんだから」こうやって遊んでいるとただの飼い犬みたいな感じだけど―喋ってるけど―、彼は神の
「グゥルルルル…」と
「強いですなあ、ミケツさんは」と僕は言う。実際、ほとんど綱を持って行かれてる。
「俺様を誰だと思ってんだ?」
「柴犬」と僕は即答。
「いや…お前の見張り番だかんな?」
「大して見張ってないじゃん」そう、ミケツさんは常に僕といる訳ではない。
「いや。お前の動きは
「うわあ。
「汚いもん見る目で見んな、ボケェ」とミケツさんはプリプリしている。
「だってさあ…お風呂とかも察知してる訳でしょ?」と僕は尋ねる。
「まあ、そんなに真剣には見張ってねェぞ?そのあたりは」
「いや…一応だけど僕、女だぜ?」見た目は青年風だけどさ。
「ってもねェ…
「
「ま、そういうのが良い人もいるから気にすんな」とミケツさんは事も無げに言う。
「でもさあ。やめてよね。流石に恥ずかしいって。誰かにお風呂を察知されるのは」
「ん?まあ、そりゃそうだが―水と言うのは案外に危険なんだぜ?」
「いや、溺れたりしないから」と僕は言っておく。
「それは心配してねえ。ただ、水は色々と『呼んで』しまうからな」とミケツさんは言う。呼ぶって何を?
「何?怪談話かい?
「ユーレイの
「水のある所に文明あり…そうか、神様が寄ってくるね、そりゃ」
「おう。
「ふむ…あのさ、海はどうなの?」と僕は
「そらワタツミさんトコの話だな。彼らは海の水の支配者だ…古来、
「
「だなあ。彼らは基本、社交的な神だが―まあ、例外もいるからな」とミケツさん。
「例外?」
「お前、宗像3女神って知ってるか?」と尋ねるミケツさん。一応、の知識はある。宗像は宗像大社に
「ええと…
「そ、ま、順序は例の
「ふぅん…確か―沖ノ島って今でも厳しい
「俗にいうお
「詳しいねえ、管轄外の割に」
「ま、付き合いと言うヤツだな。噂は良く聞く。あと、人間サイドの記述じゃ
「ふぅむ?中々に気難しい方なのね?宗像の3女神様は?」
「うむ。なんてーか、クールで近寄りがたいものがある」とミケツさん。
「かの
「そ。俺がそばにいる時は良いが―いない時はヤバい。基本、神は同性を嫌うもんだ」
「それは―別に人間も変わらないよ」そう、そういう事はままある。神も人間も。
「あの人らは筋金入りだぞ?」とミケツさんは言う。
「ウカノカミ様はあんなんなのにねえ」と僕はあの伏見稲荷の彼女を思い出しながら言う。
「姐さんは珍しいクチだわ。ま、8
「宗像3女神様とその他諸々はそーでもない、か」
「下手したら害される。神の考えは人の
「困った事に―」僕は言う。宗像の方に行く用がある。訪問活動、長田さんのお
「ひきこもり女の家に訪問、ね」とミケツさんはやや難しい顔で言う。
「ヤバいかな?」と僕は心配して言う。
「まあ…たぶん大丈夫だろう。
「うん。持ってく」
「変なモン見たら連絡しろよな?お前が死んだら俺がヤバい」とミケツさんは自分の身を
「ま、気ぃつけるよ」これがフラグになるなんて思ってもなかった。
↑本文、了
※1 「メンブレン―牛肉 3D部位解説」
有限会社 トヨニシファーム
https://toyonishifarm.co.jp/prt_detail.php?c=diaphragm_membrane
2021年12月21日閲覧
※2
「筑前国続風土記」
貝原 益軒 著
貝原 好吉・竹田定吉 編纂
1709
https://www.nakamura-u.ac.jp/institute/media/library/kaibara/archive05.html
@中村学園大学 貝原益軒アーカイブ
また以下のサイトと文献を参考に本稿を書きました。
「世界遺産 『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺跡群」
https://www.okinoshima-heritage.jp/
2021年12月19日閲覧
「宗像大社 ホームページ」
https://munakata-taisha.or.jp/
2021年12月19日閲覧
「古事類縁」
文部省・神社司庁
1914
@古事類縁ページ検索システム
https://lapis.nichibun.ac.jp/kojiruien/
「福岡 女神の島」
@NHK
https://www2.nhk.or.jp/archives/michi/cgi/detail.cgi?dasID=D0004990984_00000
2021年12月20日 閲覧
「福岡 みあれ祭り」
@NHK
https://www2.nhk.or.jp/archives/michi/cgi/detail.cgi?dasID=D0004500588_00000
2021年12月20日 閲覧
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