探偵の妻が強すぎる ─探偵 我妻強の随想録─

銀鏡 怜尚

序章

序章

 探偵に必要な気質とは何だろうと思うことがある。口が堅い、秘密主義はもちろんのこと、辛抱強い、目立ちたがらないなどもあるのだろうか。

推理小説や漫画のイメージから、鮮やかに事件を解決する華やかな世界を想像するかもしれないが、実際の探偵業とはそれとは正反対だ。浮気調査、素行調査、ストーカー対策、人探しなどが主な依頼される事項であり、少ない手がかりから真相を見出すところは推理小説上の探偵と共通しつつも、内実は極めて地味で泥臭い職業だと私は思っている。


 話を戻すが、上記を踏まえると、自ずと探偵業に求められる資質が見えてくるかもしれない。慎重かつ大胆で、鋭い観察眼と慧眼けいがんを備え、特に肉体を酷使しながら真実を探求する。地味で泥臭くて決して輝かしい生業なりわいではないにしろ、頭脳も肉体も精神も精錬されていなければ務まらない。実際に数少ない優秀な探偵仲間を見てみると、その三要素がどれもバランス良く具備されているように感じられる。


 しかし、探偵の要件に『妻が強い』を挙げる人間は皆無だろう。実際に私自身もそうは思わないし、『妻の強弱』が探偵のパラメーターに大きく影響することは普通考えない。むしろ、『妻が強い』ことで、探偵業に(限らずかもしれないが)何かと支障が出てくるのではないかと推察される。

 かくいう私は、それに該当するところか、全国の探偵は数あれど、ここまで『妻が強い』探偵は多くないのではないかと思っている。妻が強い理由は、私にも原因があるかもしれないが、出会ったときから既に強かったように思うと、もともとの性格であるようにも思える。

 おかげで、依頼人との相談中、任務の遂行中に、妻の『横槍』が入り、肝を冷やしたことは数知れない。そう言いながらも、これまで何とか、近隣の同業者に比べるてそこそこ依頼件数も多く、悪くない評判を保てているような気がすると思われるのなぜなのか、自分なりに省察してみる。


 まずは、過去の事件簿をいくつか振り返ってみようと思う。

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