第411話:奮い立て、世界よ
願いを叶える神の御業。
当然、その障害となる存在は徹底して排除しに来る。
「あン?」
まずは神速の騎士へ、より速く、より強き戦士を送る。天より降るは神速の天才、ノアが知る由もないがウルティゲルヌスであり、ブレイザブリクのようにも見えた。魔障が知る、最強の戦士を形作ったのだ。
その速さは――
「むお!?」
『■!』
音を置き去りにするほどのものであった。
ノアは眼を剥き、自分よりも速い生物の存在に、
「はっはっは!」
胸躍る。
常に自分が勝る直線速度で負けた。だからと言って、白旗を挙げるほどこの天才は素直ではない。街並みを利用した立体的な機動、彼の知る努力の天才、超反応を持つ天才、そして心根がイカれた天才、その三名ともただ速いだけじゃすぐ対応してくる。目線は常に其処、決しておごらず、弛まず、油断はない。
もっと鋭く、もっと研ぎ澄ませる。
刹那を刻む、超加速の連続。
歴戦の騎士はここで読みを通してくる。あの騎士級たちはこれでも対応してきた。だから、裏の裏。
「真正面ンッ!」
『⁉』
散々裏をかき、死角へ回り、其処からの真正面。
しかも、端から突きの構えで突貫する。点で切り裂くように加速し続ける。肉体と言う面では空気の壁に阻まれ壁があった最大加速を、一気に更新する。
神速は人体の壁を越え、超人の領域へ足を踏み入れた。
つまり――
「天ッ才!」
創意工夫で音の壁を突破したのだ。
速さは力、その文言通りに魔障が形作った最強の戦士、人型における最適解をあっさりとぶち抜き、置き去りとする。
「んー、絶好調。俺様、やっぱ天才だぜ」
騎士級との交戦、幾度も幾度も幾度も、彼らが用意した遊び場で戯れ続けた。隙あらば殺される、温い手を打っても殺される、そんな場所だから、
「おー、まだ立つか。いいね、やろう」
天才『たち』は進化した。
爆発的に。
そう、
「俺に速さは通じない。全部見えるし――」
超反応、神速すら見切る神経伝達が人類最速の天才もまた進化し続ける。見てから全部間に合ってきた。その見切りはさらに手前で反応するようになった。
だが、それでも間に合わない生き物が、魔族相手には、
「――俺、頭も良いから」
読みを通すだけでいい。
もう、見るまでもない。死角を突いた相手の攻撃をかわしながら、視線を向けることなく背後を切り裂く。あり得ない体勢から斬撃を放てるのも、この天才の特権。天は彼に二つの天賦を、ギフトを与えたのだから。
無論、
「何と言う速さ、強さ。参ったね」
かつて上記のド級の天才たちと並べてなお、その上を征くと言われた天才がいた。本人は自分を天才だと思っておらず、何故皆は突き詰めないのか、彼自身が周囲の怠惰に疑問を、ある種の嫌悪すら抱いていた。
そう、この男もまたある意味で心根が天才なのだ。
決して妥協せずに、突き詰め続ける。それを自身の楽しみと、ライフワークとする異常。それを彼が異常と理解するのは時間を要したが――
「消極的に受け、捌くしかない」
半身で、苦しみながら受ける。自分にはノアのような異次元の速さはない。イールファスのような超常の反応速度など持ち合わせていない。
ただの凡人だから、凡人らしく引きながら受けて、
「半身はね」
もう半身は攻撃後に絶対生まれる隙を突く。如何なる速さも、如何なる力も、大なり小なり攻撃後には隙が芽生えるもの。単純に、速さと力にあかせた攻撃では、堅守に徹した自分は突破できない。苦しみながらギリギリ応じが間に合う。
それを半身でこなし、もう半身は引き込んだ相手を斬るだけの簡単なお仕事。
攻守完備、左右非対称の異なる戦型を使い分け、時に右で、時に左で、攻守を切り替えることすら可能。
左右対称であり、非対称でもある。
騎士級との交戦で完成した。自分のうず高く積み上げた万能を生かせる最適解が。長かった。まだまだ、積み上げたいものは無限にある。
だけど、
「嗚呼、今はただ……クルスに会いたい」
自分も完成したぞ、と輝ける男と呼ばれた男は子どものように笑った。
器も、心も、こと戦闘に関して彼らは三強と呼ばれるだけあり、黄金世代の中でも飛び抜けている。否、彼らが飛び抜けていたから黄金世代であったのだ。
誰よりも早く完成した一強。
されど、その独走を三強が許すわけがない。むしろ、嬉々として追いかける。だって、彼らはずっと待っていたから。
追いかけっこの日々を。
とうの昔に、天才たちには火がついていたのだから――
○
東の果て、アスガルドのアーシア、つまりは学園の近辺にはそれは現れた。
しかして、
「わし、参上!」
「固定砲台を死守するように。陣形を乱さず、落ち着いて対処しましょう」
「……わし、砲台扱い?」
此処には人類最大火力を持つ、勇者亡きあと最強の守護者がいた。出陣前、精のつくものをたらふく食べてきた。準備運動も万全。
腰への不安はあるが、それはまあいつものこと。
「五学年以上とは言え、学生も動員しているのです」
「わかっとる。誰も死なせぬよ。わしの――」
真紅の雷が迸る。
現役では数少ない、魔法剣を握る騎士。否、彼だけがそれを握るしかないのだ。未だ、騎士剣サイズで彼の全力に応えられる導体が存在しないから。
それが最適解なのは、何の工夫もなければ彼只一人。
「ウル・ユーダリルの沽券にかけてのォ!」
海岸線に、英雄の雷が煌めいた。
○
大陸の西の果て、ラーの中でも辺境の、少数民族が居住する地域。国家や『双聖』の支配が及ばぬ分、自主自立の精神が根付く地であるが――
「……」
「……終わりだ」
そんな彼らは終末の光景を前にただ膝を折り、絶望していた。
騎士はおらずとも集落を守る戦士たちはおり、普段はダンジョン攻略なども担っているが、そんな規模ではない災厄が来たのだ。
もはや手の施しようなどない。
「……」
「……」
大人たちはただ自らが信仰する神に祈り、
「びえええええん!」
赤子、子どもたちは絶望の気配に泣きわめく。
それでも闇は無常に迫り、人々の眼前まで迫りつつあった。辺境の民などあっさりと飲み込み、ラーの王都を、そして世界中に滅びを振り撒く。
そんな嘆き、絶望の声が――
『ミズガルズの民を守る必要があるのかい?』
『……子どもが泣いていますから』
『……そうか』
何かを引き寄せた。
『君はやはり美しい。守ろう、子どもたちを』
『ありがとう、あなた』
『当然だとも。我々は物語を紡ぐ、鏡の女王の守り手なのだから』
光り輝く夢が現れた。
もはや、存在しない幾重にも束ねられた物語の集積する王国。世界一心が美しい女王と、その守り手たちが、物語のような王国が絶望の前に顕現する。
白き騎士が率いる美しき軍勢。
彼らは女王の物語の中でこそ真価を発揮する。
『不思議の国へようこそ』
女王がパラパラとめくる、流れ着いた物語の一幕。その物語が広がり、災厄と拮抗する。夢の世界、現実と隔絶された今だからこそ――
『女王と共に!』
『共に!』
その奇跡を目撃するのは、ほんの少しの人々だけ。
ただの与太話、信じる者の誰もいない物語が今、始まる。
○
敵の襲来は旧宮から、魔道研究所の地下から来ると予測していた。北の僻地へ移送された人造魔族が、決戦の時には其処から群れをなして送り込まれてくる。だから、新宮の前を固めていたのだ。少ない戦力をやりくりして。
簡易的な砦まで築いて――だが、災厄は予想もしていないところから訪れた。
天より、直接王都へ災厄を振り撒いてきたのだ。
「くそ!」
ディンはすぐさま団長を通し、皆へ指示を飛ばす。もはや大王との戦がどうこうといった話ではない。このままでは王都が滅ぶ。
いや、それだけでは済まないかもしれない。
国が滅びかねない。
その上、
「あちらが動き出す可能性があります。見ておく戦力は必要かと」
「まずは民だ。新宮はくれてやれ!」
「……イエス・マスター」
大王陣営が火事場泥棒に打ってくる可能性がある。そもそも、どうやったのかは知らないが、状況から察するにこれが大王の仕掛けなのかもしれない。
まるで何も見えぬ状況で、
「頼むぞ。杞憂であってくれ!」
ディンはただ祈るしかない。あの檻に相当する数の人造魔族の群れに挟撃されたら、間違いなく王都は滅ぶ。
そうでなくとも滅亡の縁に立つと言うのに――
「マスター・クレンツェ!」
「なんですか!?」
「旧宮の方、あれ……あの時のドラゴンです」
「ッ⁉」
旧宮の高き尖塔、その高みで吼えるは白と黒のドラゴンであった。
多くの人員を賭して捕らえたファウダー、『トゥイーニー』。魔道研究所の成果物でもある。あの変質が、無差別に火を吐く姿が――
「……他の、人造魔族も、可能性は高いよな」
「ど、どうしましょう?」
「……今は捨て置く。とにかく民だ! 城下の人々の安全を確保……いや、違うな。避難を急がせろ! 王都を守り切るのは不可能だ」
「よろしいのですか?」
「現実問題、全部は守れねえよ。選ぶなら民だ。王都でも王宮でもない」
「イエス・マスター!」
新宮の放棄は確定。王都も基本的には放棄し、民を王都から離脱させる。とにかく天にダンジョンが浮かぶ、この状況がある限りどうしようもない。
「ディン、活きがいいの集めてきた」
「悪いな、カイサ」
「黄金世代のログレス卒として当然のことをしたまでよ」
「……心強い」
騎士に成るまでは横並びでも、騎士に成ってからの経験で差がつくことは多い。経験次第で玉が曇ることもあれば、それ次第で石が輝くこともある。
今、自分で考えて動ける人材が必要なのだ。
自分の考えを、共有できたらなおいい。
「あとは――」
「スタディオンがどれだけの戦力を集めてくれているか、ね」
「頼むぜ、手持ちじゃ避難誘導すらままならねえからな」
そんな騎士はまだ、この国にもいる。
きっと、すぐそばに――
○
「大変だ大変だ~」
頼りになる面々が出払い、パヌは陣中で右往左往していた。正直言ったら自分は使うより使われたいタイプなのだ。
向いていないのだ。
だけど、
「あう~」
頭を抱えながら、深呼吸を何度も繰り返す。来月発売の玩具を思い浮かべ、逃避しようとする自分を必死で律する。
だって、自分がやるしかないから。
「よーし、よしよし!」
気合を入れる。
自分がへこたれては、ヘマをしたら、評価を下げたら、また陰口を叩かれるから。自分のことは良い。そんなのへのかっぱである。
でも、親友のことは許せない。
「誰が音頭を取るべきだ?」
「序列としては――」
「しかし、発起人はスタディオン殿で――」
「だが、現役を退いておられる。さすがに其処は現役の騎士が――」
対抗戦落ちした自分がしょぼければ代表だった親友が馬鹿にされる。自分が頑張れば、あの世代は層が厚かった、そう思ってもらえる。
だから――
「じゃあ皆さん、カチコミいきましょー!」
パヌは頭もお腹も痛いのを我慢して、屁でもないと言わんばかりの笑みを持って皆の前に現れ、そしてやるべきことを伝える。
「俺、先導しまーす」
「き、気楽だな」
「さすが天才ペアの片割れだ」
「そーそー、俺、天才なんでっすよ」
対抗戦落ちだけど。諦めて、へそ曲げて、親友の変調にも気づいてやれなかった間抜けだけど。それでも、だからこそ、
「れっつごー!」
パヌ・カルッセルはへたれな自分を抑え込み、皆の前に立つ。
俺も黄金世代だ、と言わんばかりに。
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