第一章〈逆臣だらけの宮廷〉編

勝利王の書斎11:不名誉よりも死を

 こんにちは、あるいはこんばんは(Bonjour ou bonsoir.)。

 私は、生と死の狭間にただようシャルル七世の「声」である。実体はない。

 生前、ジャンヌ・ダルクを通じて「声」の出現を見ていたせいか、自分がこのような状況になっても驚きはない。たまには、こういうこともあるのだろう。


 ただし、ジャンヌの「声」と違って、私は神でも天使でもない。

 亡霊、すなわちオバケの類いだと思うが、聖水やお祓いは効かなかった。

 作者は私と共存する道を選び、記録を兼ねて小説を書き始めた。この物語は、私の主観がメインとなるため、と心得ていただきたい。


 便宜上、私の居場所を「勝利王の書斎」と呼んでいる。

 作者との約束で、章と章の狭間に開放することになっている。



 第0章で登場した「不名誉よりも死を」は、ブルターニュに古くから伝わる戒めの言葉だ。


 フランス語で表記するなら、"Plutôt la mort que la souillure."

 ブルターニュ地方の方言で表記するなら、"Kentoc'h mervel eget bezañ saotret."


 直訳すると「汚されるくらいならむしろ死を選べ」だろうか。

 ブルターニュの誇り高くも苛烈な騎士道精神は、不正や失敗、妥協や甘さを許さない。


 アルテュール・ド・リッシュモンはイングランド王ヘンリー五世に臣従したことを恥じていたようだが、私ことシャルル七世がヘンリー五世よりましな王だったかはわからない。少なくとも、臣従関係になって最初の数年間は衝突することが多かった。


 リッシュモンはまじめで寡黙な堅物で、私は涙もろくて周りに流されやすい。

 性格も容姿もまるで正反対なのだから、合わなくて当然だろう。


 付き合いが長く、深くなじむにつれて、お互いに替えの利かない存在になるのだが……、それはまだ先の話だ。


 さて、時間が来たようだ。

 これより青年期編・第一章〈逆臣だらけの宮廷〉編を始める。

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