第9話 僕のブレイクタイム
次の日の朝。昨日の夜に桜さんから伝えられたように、買い物へ向かう予定の日だ。
あの後決めた予定その他諸々では、時間や目的地などを決定した。斗真とどこかへ行こうなんて決める際は、目的地だとかを予定も何も決めずに集合したりするので、まあ中々しない体験だった。
しかし、昨晩も考えたように、ああいう僕を気に入らないかのような同級生たちがしっかりと存在している。そんな輩に本日の行先で目撃されようものなら、いつどこで情け無用の罵詈雑言を飛ばしてくるのか分かったものじゃない。割と心当たりが無いので疑問が消えないが、なにか僕は悪いことをしただろうか。
ただ、これはある意味戦争なのだと謎の解釈をする。訳の分からない解釈を抱えたままではあるが、時計を確認したのちに家を出た。
時は午前10時を少し過ぎた辺りだった。何も考えず、ただ服もあまり種類を持ってない為に意識なんてする筈もなく。気に留めることもせずに、パーカーで出てきてしまったのだが、大丈夫だろうか。いや、別に普通だと言い聞かせることにしよう。
遅刻をしないようにと早めに出たので、予定時間までは一時間近くある。その為、目的地までは徒歩で向かうことにした。別に自転車に乗れないわけではない。決して。うん、決してそういうわけではない。
歩く途中に、人だかりをいくつも見た。それは恐らく有名なあのスマホゲームによるものであると、簡単に予想がつく。以前から始めてみようかと考えたもの、一人で携帯電話片手に街中を徘徊などしてみようものなら普通に変質者である。割と危険がたくさんのこの街で歩きスマホなんてしようものなら、多分爆発の一つや二つに巻き込まれてもおかしくはない。いや、おかしいか。
まあ、自分が持つ危機管理能力の低さを鑑みれば、それくらいの危険はあるという事だ。
それは、周りの人間が皆昨日の生徒みたいな視線を僕に送るには、充分過ぎるのではないだろうか。
まぁ、本人は結構そのシリーズが大好きである。次から次へと新シリーズが登場するという点がある為、尚更。特別ファンだとかそういうのはないが、なんか気付いたらすぐにダウンロードしてしまう。
しかし、自分がネットトラブル等に敏感なのもまた一つ悩みである。
敏感といえば、過去に小規模な地震が起きたときも、その後数ヶ月にわたり上階の教室から少し音が聞こえただけで反応してしまう程までだった。
はいはい。どうせビビリですよ。記憶が忌まわしい忌まわしいったらありゃしない。
そんな事を考えていれば、すぐに到着してしまった。約束の時間までは30分ほどあるらしい。
しかし自分でも思うのだが、目立ちたくないとか、見られたくないとかいう割に結構危ないことはしている。人気のないゲームセンターに入り浸っては、延々と100円玉を浪費する……即ち、ゲームセンターに入った時点てで『プレイヤー』になるのだ。
ゾンビを撃ち殺すシューティングゲームから始まり、小学生の溜まり場であるカードを使ったゲーム。仕舞いには画面での火傷を防ぐ為に軍手的なものを必要とするゲームまで……
うん。そろそろ自重した方がいいかもしれない。というか、ビビリですよとか言っておいてスプラッタ系のシューティングは出来るんだ。自分でも驚いたよ。
いや、今日はそんな事のために来たんじゃない、と。両替機という魔の巣窟から早急に離れ、集合場所の近くに店を構える本屋へ向かった。
待ち合わせ場所となるその店の隣には、すごい『オシャレ』という言葉を絵に描いたようなカフェが存在している。内心結構行ってみたいと思いつつも、一人で入るのは絶対に無理だと分かっているからか、近寄りがたいイメージが定着していた。
過去に斗真を誘ってみたものの「あそこでいいじゃん」と。斗真は遠目ながらに確認できる位置へ店を構える、大手ファストフードのチェーン店を指差しながら返事をよこした。
失礼かもしれないが、相手が斗真だから言わせてもらう。おそらく、斗真にとっても入り難い場所なんだろうなと思う。だってあいつ、殆ど脳筋だし、ああいうところは僕以上に合わなさそうだなって偏見がある。
そんな事を考えているうちにも、時間は刻一刻と過ぎ去る。気づいた頃には、集合時間に差し掛かっていた。
急いで店を出ると、何も変わらない彼女の姿が、そこにあった。
「あ、おはよー日向ちゃん‼︎」
「お、おはようございます……相変わらずテンション高いですね」
普段となんら変わらぬテンションで、声を上げていた。それと同時に、同じような年の人間をひたすらに探していたのは言うまでもない。本当に楽しめるのか今日。
「それじゃ、いこっか!」
こうして、夏休み初日を迎えた訳だが。
その内心はと言うと、残念なことに心に抱えた重い何かを気にしながら、偽りの笑顔を振る舞うという現状を生み出している訳だ。無念。
「っていうか、前から気になってたんだけどね……日向ちゃん、敬語やめない?」
しかし、突然そんなことを言われようと。
どれだけ同じ歳といえど、僕自身はどんな相手に対しても敬語を使う癖が抜けないのだ。身内以外でタメなの斗真以外いないし。
「そんな簡単には治りませんよ……癖なんです」
「えー……」
確かに、そんな互いの関係を築きたいというのもまたひとつなのだが、最初からそれが難しいということは分かっていた。少しずつ、少しずつ、いつかは変われるといいのだが。
悩める日常は結局ここ数日を置いたとしても変わる事なく、ただ周りだけが前へと進んでいる。そう感じながら、僕もゆっくりと追いかけるように歩く。
空調の効いた店内が、憂鬱で少し寒く感じた。
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