大体皆んな自分勝手だから

真堂 赤城

第1話

2022年1月1日俺は死んだ、トラックにはねられて死んでしまった。

今世間は正月だの年始だのとわいわい騒いでいる。

お年玉をもらって喜んでいる子供がいたり孫に会えて喜んでいる年寄がいたり。

老若男女問わず、楽しそうに笑っているのが目に入る。

あまり気分のいいものではない、自分勝手なこといっているのはわかっている。

だがそれでも不公平だと嘆かずにはいられなかった。


トラックにはねられて死んだと言ったが、俺が信号を無視していたとかではなく。

トラックの運転手が酒に酔ったまま運転し、歩道を歩いていた俺に後ろから突っ込んできたのだ。

その運転手は今も生きているらしい、死んだのは俺だけだった。

俺は運転手を強く恨んでいる、だがそれ以上に強く後悔している。

もっと周りに気をつけていれば、あの日あの道を歩かなければ。

もう何を考えても遅かった。


俺はトラックにはねられて死んだが、痛みはなかった。

それが唯一幸せだったことだろう。

痛みなく死ぬというのは不思議な感覚だった。

トラックにはねられたときの強い衝撃と、地面に叩きつけられる強い衝撃以外に、何かを感じることはなかった。

気付いたら死んでいて、今のように空中をふわふわとただよっていた。

もし浮かびながら自分の死体を見なければ俺は自分が死んだことにも気付けなかっただろう。


空をただよいながら見る景色はとても綺麗だった。

いつも見ていた町は、とても小さく見えて。

自分がいつも見ていた世界は、こんなにもちっぽけだったのかと、少し気分が軽くなった。


俺が死んだ日からかなりの時間が経った、だいたい1年ほど。

最初の頃はそんなことはなかったが、最近はときどき意識を失うことがある。

そして意識を取り戻すと、だいたい近くで誰かが死んでいる。

死者が長期間現世に留まり続けると、悪霊になってしまうという話を思い出した。

俺が原因で、何人もの人が死んでいるかも知れないと思うと、とても申し訳なく感じてしまう。

だがそれでも、幸せな今を捨てたくないと考えてしまう。

俺を殺した運転手と比較しても、俺の方が大罪人だ。

少なくとも、俺は5人は殺しているだろう。

もしかしたら、もっとたくさんの人間を殺しているのかもしれない。

成仏するのが正しいのかもしれない。

だが、俺はまだこの世界に居たいと思う。

その選択によって多くの人間が死ぬのだとしても、俺は間違っているとは思わなない。


明日は今日よりももっと、綺麗な景色を見れるだろうか。

綺麗な夕焼け、綺麗な町並み、そして最も綺麗な人の不幸。

明日もまた俺は人を殺すだろう。

罪悪感に苛まれながらも、心の底ではほくそ笑むんだ。

でも、皆も楽しんでるんだから俺もいいよな。

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大体皆んな自分勝手だから 真堂 赤城 @akagi33229

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