トランス・ゼロ〜紋章と精霊王〜

久木戸 ロラン

口伝

 口伝―――作者不詳


 今は昔、遙かいにしえ神代かみよにより近きとし

 精霊は大気に満つ。ことわりは正しく保たれ、人々は平穏の中にあった。


 ある日、「それ」は、何処いずこからともなく顕現けんげんした。

 何ものでもない「それ」を、人々は「大いなるもの」と呼んだ。

 理のほかたる「大いなるもの」は、世のすべてを飲み込まんとした。

 世の理たる精霊はそれをよしとせず、王のもとに集い、「大いなるもの」を排すことにした。

 人は精霊と共に戦うことを望んだが、その力はあまりにも脆弱ぜいじゃく

 火、水、雷、風、土、光、闇の七精しちせい其々それぞれ人の子を選び、力と紋章をあたえた。


 なれど「大いなるもの」の力、強大なりて、押し返すことあたわず。


 数多あまたが落命し、大いに嘆いた精霊王は、自らを代償に「大いなるもの」を封じた。

 王を失った精霊はきずを癒すべく眠りにつき、地上より消える。

 七精眠りし地は加護を受け、栄えた。

 紋章を受けた人間は、ある者は国をおこし、ある者は旅に出でた。

「大いなるもの」の目覚める日に備えて。

 


 ―――エルメル書 第二章三節冒頭

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