アルテミスの祈り ~ ギャラクシードール戦役 ~

磨糠 羽丹王

旅の始まり

アルテミスとの旅立ち

第1話 「私の希望」

 古代の騎士の如き姿をした白亜の機体は、撃墜され火球と化した敵機を次々と後方へと追いやって行く。

 モニターに映る星々が流れて見えてしまう速度で作業コロニーの宙域を突き進み、更に火球を量産していた。

 有り得ない反応速度だった。コクピットのモニター上に次々とピックアップされる敵機に対し、寸分の狂いもなく照準を合わせ確実に撃墜して行く。しかも、その間も次々とマーカーされる対象物を解析し、敵機のみをピックアップしているのだ。

 ──この機体のCAI(機体制御用人工知能)アルテミスって、どんな演算能力を持っているのだろう。普通は操縦のサポートだけでもかなりの演算能力が必要だというのに、機体の操縦から索敵さくてきに攻撃まで全てこなしている。しかも、考えられない速度で移動しながら……。


「アルテミス!」


 問いかけて直ぐに後悔した。会話にリソース(処理容量)を取られたら、挙動に影響が出るかも知れない。

 無視される事を期待していたけれど、直ぐに返事が返って来た。


「リオン、何か」


 挙動は全く変化しなかった。相変わらず凄まじいスピードで敵を排除し続けている。


「い、いや。俺は必要なの」


「その事は後でゆっくり説明します。今は少しでも操縦桿そうじゅうかんトリガー引き金のタイミング、機体制御時のフットペダル(脚用操縦機器)の挙動を感じて下さい」


「あ、ああ。分かった」


 あっという間に作業コロニーを通過した。

 その瞬間凄まじいG(加速度)が体にかかり機体が急回頭する。 

 速度が落ちない様に円を描く様な軌道を取ってはいるけれど、回転半径はかなり狭い。

 そんな回頭中ですら、HUD(ヘッドアップディスプレイ)には次々にマーカーが浮かび解析を続けている。

 アルテミスが最もマーカーの多い宙域に機体を向けると、再び急加速のGが掛かった。 

 意識が遠のくほどのGにさらされながら、俺は数時間前に見た夢を思い出していた……。


 その女性は見慣れない格好をしていた。

 全身真っ白で、プロテクターが付いたレオタードの様なボディスーツを身に着けている。

 その表面には、文字や数字に加えて幾何学模様が描かれ、スラリとした流線型のスタイルは美しい女神の様だった。

 プラチナシルバーの長い髪が風に揺れ、ヘーゼルブラウンの瞳が俺を捉えている。凛とした目鼻立ちをして、優しく微笑む表情がとても美しい。

 ──彼女は誰だろう。会った事が有る気がするけれど思い出せない。

 そんな彼女は、いつまでも優しく俺に微笑んでいる。


「あなたは私の希望……」


 彼女が遠くを見る様な眼差しをしながら、しとやかに紡ぐ声が聞こえた。


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