「…」

彼は、何も言わず、静かに私の言葉に耳を傾けている。


安易な同情も、共感も示さない。


それは、きっと、本当の痛みを知っている人の反応で、だから、私は、気付いてしまった。


彼の袖口からのぞく、歪な一条の傷跡に。


「だから…、この花が好きで、見に来ていた訳じゃないの。情けない話でごめんなさい」


「…確かに、この花は、君にとてもよく似ている」

彼が、私を見る。


一瞬その顔が、泣きながら笑っているように見えたけど、実際は、そんなことは無かった。


そう見えたのはきっと、明るいながらも震えている、所々音程を外したような彼の声のせいだ。


―そういえば、今日は、例年よりも良く冷えるって、天気予報で言っていたっけ。

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