意味を見出して
シヨゥ
第1話
「意味のないように見えることでも意味はあるもんだ」
村の年寄りはそう言う。
「意味は自身で見出すもの。他人がとやかく言うもんじゃない」
そう言って紫煙をくゆらせる。
「とやかく言う輩が見ているのは『こうあるべき』っていう常識だ。こうあらねば意味がない、価値がない。だからこうあるべきっていう考え方だな。こうやって出る杭は打たれて、つまらなくなる。だから若いの」
煙管が鼻先に突きつけられた。
「こうあるべきと決めつけるな。そういう考え方もあると思ってやれ。どうせ他人。他人の人生に口出しするほど野暮なものはない」
「はい」
「まあ……うるせえ、うるせえと言ってきたらこんな様ではあるんだが」
そう言って自嘲気味に笑う。彼に寄り添う伴侶はおらず、仲間もいない。村はずれのあばら家に住んでいるのがその証拠だろう。
「意味がないと言われ続け数十年。それでも俺は俺を貫いた。村にはいないが街には俺の作品の良さを評価してくれる者もいる」
そう言って取り出した箱には手紙の束が納められていた。
「それでは街へ出ては?」
「もうこの歳だ。出ていかれない」
「それこそ大人しくここに住むべきという考えに取りつかれているのでは?」
「痛いことを言う」
そう苦々しく吐き捨てて紫煙をくゆらせる。
「あと10若ければな」
「まだまだ」
「手伝う物もいない。付き添う者もいない。そんな老人が街に出てどうするよ」
「ならば付き添いましょう」
僕の言葉に彼が固まる。
「なんだって?」
やっとのことでそう返してきた。
「付き添いましょう」
だからもう一度同じ言葉を繰り返す。
「こんな老いぼれに付き添っても何の意味もないぞ」
「意味は自身で見出すもの。他人がとやかく言うもんじゃない」
そう返すと何とも言えない顔をした。
「知らんぞ」
「他人の人生に口出しするほど野暮なものはない、でしたよね?」
終いにはそっぽを向いてしまう。
「まずは伝手を辿って家の手配をしましょう。それが決まり次第また伺います」
「好きにしろ」
「分かりました。好きにさせてもらいます。先生」
「なんだって?」
「先生と弟子、血縁もない僕たちにとってはそんな関係性の方が分かりやすいでしょう?」
「好きにしろ。ただし、そう呼ぶ以上は俺の技を教え込むからな」
「願ったり叶ったりです。それではまた」
家を飛び出すとあたりはもう暗い。それなのになんだか世界は明るく見える。はじまりとはこうも神々しいのか。そう思えるほどに。
意味を見出して シヨゥ @Shiyoxu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます