ミヤコ童子は傍にいる

佐倉真理

第1話

 お守りの袋を開けてはならない。

 そんなことをよく言われる。

 幼いころ、神社で買ってもらったお守りを開けようとした時、母親は開けてはならない、と言った。そうすると効果が無くなってしまうと。

最近で言えばコロナ禍の中、テスラ缶というのがひそかに流行しているらしいが、あれも中身を開けてしまえば効力を失うという。

 鶴の恩返しなどは典型的な話かも知れない。「決して見てはいけない」という戒めを破り、中を覗いてしまった男は妻を失う結果となった。


 幸せとか安寧とか。そういうものは実態を探ってしまえば、失われるものであるらしい。人間関係などでもそういうものだろう。人間の中身———本音を知ってしまえば必ずわだかまる。

 人間関係に限らず、社会における諸制度や社会の実態なども同じことが言えるだろう。

 見ないふりをする。そうして、現在の安定を甘んじる。そうできるなら、それが一番いい。


 だが、それは呪術的な態度だ。人間というものは、中身を確かめずにはいられない。わからないものを分からないままにしておくことは出来ない。自分に利益をもたらす存在について、その内実を見て見ぬふりをしては、どこかで何か代償を支払うことになる。あるいは誰かにその代償を押し付けたままになる。

 それでいい、という人間にとってこの話は共感できる話ではないかもしれない。

 僕は、そうしたくない人間だった。


 これはそんな話。誰かに押し付けた、幼い日の罪を自覚する話である。

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