番外編:彼女のオールドスイートメモリー


『ね、あなたもいっしょに遊ぼうよ!』



『あ……うん、じゃなくて、ううん、いい』

『遊ばないの? なんで?』

『えっ……え、えっと……』

『うん?』

『わたし、しゃべるのとか、走るのとか、へた、だから……』

『なんで? それでもいいよ?』

『人がいっぱいいると、こわくなっちゃう、し』

『じゃあわたしとふたりで遊ぼう?』

『……え……』

『それなら、こわくない?』

『………うん』


『よかった!あのね、わたしはね、れんっていってね……』





『おまえら、やめろよ!』

『げー、ラスボスが来た』

『アヤネちゃんが困ってるでしょうが!』

『さすがラスボス! 怖ええー!』

『殴るよ!』


『蓮ちゃんは、すごいね。あんなふうに注意できて』

『注意……って言うのかな。うるさくしちゃったし。結局みんなで先生に怒られちゃったよ』

『先生ちょっと笑ってたよ』

『あー、先生ひどい。いつものことだと思ってさ』

『あはは』





『魔法少女・プリズムスイレン! 清純な心は、信頼のあかし。来週もお楽しみに!』


『うー、スイレン、今日もかっこよかったな』


『かっこよかったといえば……昼間の蓮ちゃんも……』









『……なんで……引っ越すの?』

『嬉しいでしょう。ここよりずっと広くなるわよ。アヤネの部屋も作ってあげられるわ』

『でも……A市って』

『今より何駅か都心に近くなるわ。便利でしょ?』

『それって……中学は、今の家の近くじゃなくなるってこと?』





『アヤネ! いい加減にしなさい!』

『いや! わたし、自分の部屋なんていらない! ここがいい! 引っ越しなんてしない! ここにいる!』

『パパがどれだけ頑張って、次の引っ越し先を手に入れたと思ってるの! パパ、あなたも何とか言ってよ!』

『アヤネ……』

『……』

『アヤネ、ごめんな。お前に黙って勝手に引っ越しを決めたりして……』

『パパ……』

『約束する。お前が立派に大人になったら、どこでも好きな場所に住んでいい。それまではどうか』

『あなた、何を勝手に……』

『いいじゃないか。望んで努力さえすれば、どこにだって行けるんだ』


『わたしが、立派になったら……? 望んで努力すれば……』





『ここがあたらしい中学……』


『知ってる人、誰もいないなぁ』


『泣き虫の私を知る人、誰も……』



『……よし』





『今回も成績トップは久々宮さんだって』

『あー、あの久々宮アヤネさんかー。この間は弓道の大会で優勝したとか』

『へー凄い人がいるんだね。うらやましい』

『やっぱり恵まれた人は違うなあ』


(嘘みたい……私が、クラスの皆に、褒められてる……)





『日誌を無くしたくらいでそんなに落ちこまなくても、大丈夫だよ。私も一緒に探してあげるから』

『は、はいっ!ありがとうございます、久々宮先輩……』


(蓮ちゃんだったら、きっとこうする、かな?)





(立派になりたい。あの子に再会するために)


(もう一度、あの子に会える。そのためなら何でもする)





『すごいじゃないかアヤネ。ここ最近ずっと好成績だ』

『えへへ。パパとママのおかげだよ』

『これなら、高校は名門校も狙えるんじゃないか』

『それなんだけどね、パパ……』



(……そう)

(もう一度、あの子に会うために、私は……)

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