緋色の恩寵

鬼灯 アマネ

Prologue

Once upon a time

 とある森のおくに、だれからもわすれられてしまった庭がありました。


 そこはたくさんのバラの子がくらすばしょ。


 ヤナギの木のお母さんに守られて、バラの子たちは今日も、しあわせにくらしています。



 どのバラの子も、みんな赤い色をしていました。


 赤いバラが世界のすべてなのだと、だれもが思っています。


 バラの子たちは、いつもいっしょにいて、みんなで仲良くあそんでいました――

ひとりぼっちのユリの子を、なかま外れにして。



 たったひとりのユリの子は、バラの子たちと、色も、形も、まったくちがっていました。


 そしてユリの子は真っ白だったために、バラの子たちの中ではとても目立ちます。


 そんなユリの子を、バラの子たちは見ないフリをしました。



 ヤナギの木のお母さんは、みんなと同じことができないユリの子をかばうどころか、枝の手で、何度も何度も、たたきました。



 ユリの子はさみしくて、いたくて、毎日ひとりぼっちで泣いていました。


 そして涙をこぼしながら、ねがいました。



「いつの日かだれかが、もえるようなバラの中から、わたしをすくってくれたらいいのに」と。



 そう、ねがいました。


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