壊れたアンドロイドの独り言
蒼衣ユイ
プロローグ
その日、久世
美咲が長年憧れた企業『株式会社美作ホールディングスアンドロイド開発部』へインターンが決まった事を報告したら、いつまで経っても少女のような母はきゃあきゃあとはしゃいで喜んでくれた。しかしアンドロイド嫌いの父は口を聞かなくってしまった。
それだけならまだ良かった。美咲の祖父はアンドロイド嫌いなんて可愛いものでは無く、親の仇のごとく憎んでいた。
一体何があったのかは美咲も両親も知らないが、インターンを辞めて進路を変えない限り敷居はまたがせないと言って美咲を放り出したのだ。
家が父か母の持ち家ならともかく、祖父が建てた祖父の家のため手も足も出ない。
だがそんな事で仕事を諦めるわけにはいかないので一人暮らしをしようとしたが、勉強ばかりでバイトなんてしていなかった美咲が部屋を借りる事などできなかった。これからは勉強とインターンでさらに忙しくなるのだからできればバイトはしたくない。
どうしたものかと悩んでいると、母がこっそりと家を用意してくれた。何でも死んだ祖母がオーナーだった賃貸マンションがあり、今は母名義になっているらしいく、その一室を美咲にくれたのだ。
「お父さんもお祖父ちゃんも意地になってるだけよぉ。男って馬鹿だな~って思って、一人暮らし楽しんじゃいなさい」
若い女を一人で追い出すなんてどんな意地だ、と思ったが一人暮らしにあこがれもあった美咲は母の言う通りこれ幸いと一人暮らしを始めたのだった。
海沿いで景色が良く、しかも十五階だから見晴らしも良い。これはなかなか悪くないぞと楽しい日々を送っていた。
しかし、問題というのはどこに行っても起きるものだ。
マンションのボス――ではなく、ママさん方のリーダー的女性が美咲を呼び出しゴミ捨て場に引きずり込んだ。
ゴミ捨て場はそこそこ大きいのだが、外から入れてしまう造りに不安があり入居者から改善希望が出ているらしい。セキュリティ面の強化を求めオートロックにする事を求められているとかで美咲の母は困り果てていた。
まさかその文句を今度は私にかとげんなりしながら女性の指差す先を見ると、そこにあったのはゴミはゴミでも、単なるゴミではなかった。
「アンドロイド?男性型って珍しいですね」
「美咲ちゃんのじゃない?」
「私アンドロイド持ってないです。廃棄手続きするか販売元に連絡しないといけないですよ」
「まあ、やっぱり専門家ね!おばさんよく分からなくて。じゃあ後お願いね」
「え?わ、私がやるんですか」
「最近盗難騒ぎもあったじゃない?こんなところに置きっぱなしじゃ不審者がくるかもしれないし」
「いや、こういうのって発見者が」
「ええ~?こういうのは大家さんのお仕事よお。あなた娘さんなんでしょ?」
何だかもっともな返しをされてしまい美咲は言い返せず、黙ってしまったがその隙に女性はサァッと去って行った。あまりにも綺麗な押し付け――立ち去り方で呆れ果てた。
せめて協力くらいしてくれてもいいのに、とぶつぶつ文句を言いながらアンドロイドを覗き込んだ。
だがアンドロイド開発者を目指す美咲にとって、アンドロイドは大切な研究対象であり嫌な物ではなかった。むしろ好きだ。猫派でも犬派でもなくアンドロイド派だ。
しかしこのアンドロイドは大分痛々しい。あちこちのパーツが欠損し、両腕の肘から先に関していえばまるっと無くなっている。
とても正常に稼働する事はできないだろう。
「でも綺麗な顔してるしエンターテインメント用かな。にしてはボディバランス悪いけど」
アンドロイドは用途によって造りが違う。
家事をやるのは家庭用アンドロイドと総称されるが、見栄えよりも実用性が重視されているため顔立ちを整えるのは二の次だ。
華やかで整った顔立ちの方が人気はあるのだが、見た目重視のパーツを用いると眼球パーツの稼働領域が狭かったり、線の細いアタッチメントではあまり重い物を持つ事ができないといった実働面のデメリットがある。
そのためこういった外見が整ったアンドロイドは主にエンターテイメント領域で活躍するが、おそろしく高額のため一般には出回らない。
「……調べてから廃棄でもいいわよね」
初めて見るアンドロイドにわくわくしてしまい、美咲は会社で調べてみる事にした。
だがこれが美咲と祖父の関係を大きく揺るがす一歩目だった――
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