お姫様

お姫様 1

 復讐を果たした男、九路を絞め殺し、松雪は相変わらず無気力と惰性で人生を送っていた。


 今日もアルバイトが終わり、家に帰り、シャワーを浴びて、寝ながらスマートフォンをいじろうとする。


 そんな時に目を引く記事があった。


「山中から男性4人の遺体……」


 思わず口に出して読んでしまう。まさかと思い記事を読んだ。


 3人の身元不明の焼死体と。思わず背筋がゾワッとしてスマートフォンを落としてしまった。


 聞き覚えのある名前。九路一の名前がそこにあった。


 松雪はパニックになった。「え、えっ」と声が出る。


「嘘だろ……」


 他の記事も読んだが、どうやらこの事件は実際に起きたことに間違いないらしい。


 焼死体3つと、首を絞められて殺された九路一さん。


 眠かった頭が一気に覚醒した。目の前に突き付けられた事実を認めたくない。


 偶然の一致ではない。事実だ。


 今まで半信半疑で、夢だとさえ思い込んでいた。あの部屋の出来事は本当だったのだ。


 最初に絞め殺した金結も、小田も、自分が殺したのだ。


 手に上手く力が入らない。貧血を起こしたような気分になり、全身の力が抜けた。




 それから3週間後、松雪はアルバイトを辞めていた。九路の事件を知った翌日に辞めることを伝えたのだ。


 辞めると、不思議と清々しい気分になれた。世間のしがらみから解放された、心地よい気分だ。


 暇になった松雪は次のあの夢、いや、夢ではないが、あの空間に連れて行かれるまで死について考えていた。



 ふと、何かを学びたくなり、松雪が辿り着いたのは、ネットにある著作権の切れた小説だ。


 松雪は芥川龍之介と太宰治が嫌いだった。


 自殺なんてした癖に、国語の教科書に偉そうに載っているのが気に入らない。


 だが、彼らの小説を読んで、松雪は思った。


 彼らは人々が気付かずに、いや、気付いても目を背けている何かに向かい合ってしまったのだと。



 ある日の夕暮れ、秋になり日が落ちるのも早くなった。松雪は赤い日差しの中でウトウトとしている。


 そして、次の瞬間。目が冷めたら、どこまでも広がる真っ白な空間が出迎えた。


「あっ、うあっ」


 松雪はそう思わず口に出してしまった。あの世界にまた来てしまったと。


「お久しぶりです。松雪様。ご案内が遅くなり大変申し訳ございません」


 真っ白な西洋の喪服を着た美人。サハツキがそこには居た。

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