欠陥品 6

 小田は泣くのを堪えながら言葉を出した。そして、続ける。


「母親は慰めようとしてはくれましたが、アイツが僕を障害者に産んで、障害の特性で出てしまうものを叱り、障害だということを見抜けなかった。許せませんよ」


「そうですか……」


 憎しみの表情を浮かべる小田に掛ける言葉が見つからなかった。


「そして……、僕は発狂してしまい。閉鎖病棟に入院をすることになりました」


「閉鎖病棟ですか」


 玉に手をかざすと、両手で髪の毛を引っ張り、ベッドに座る小田の姿が見えた。


「地上4階、自分の部屋と廊下だけが僕の行動範囲になりました」


 閉鎖病棟と言われても自分の人生とは縁のなかった松雪には分かりかねる。


「絶望でした、うつ状態だったのもありますが、毎日頭がボーッとする点滴を刺され、自分は一生ここから出られないんだという妄想に囚われていました」


 松雪にも玉を通して感情が伝わる。恐ろしいものだった。絶望と怒り、憎しみが入り混じり、気が変になりそうだった。


「そして、僕はかつて障害者を見下していました。いや、今も精神障害者や知的障害者は異常なので生きるべきではないと考えています。自分を含めて……」


「どういう事ですか」


 感情が高ぶる小田に松雪は聞く。


「だって、統合失調症とか、妄想や支離滅裂な人って気持ち悪いし不気味じゃないですか。ADHDやアスペルガーって迷惑じゃないですか。社会のために存在しちゃいけないんですよ」


 自分自身を含めて小田は障害者を憎み、目の敵にしていた。何が彼をここまでの思想にさせたのだろうか。


「国は安楽死制度を導入するべきなんですよ。障害者の為にも、健常者のためにも」


「あの、落ち着いて下さい小田さん。死にたい理由を聞きたいのですが」


 そう言われると小田はハッとして椅子に座り直す。


「すみません、またやってしまいました。こうなるのが僕の病気です」


 視線をそらして喉を鳴らし、小田は惨めそうに言った。


「僕は、閉鎖病棟を退院して、前向きに生きてみよう。そう、思ったことが一度ありました」


 松雪はその言葉を真剣に聞く。


「僕は……、僕は、障害者手帳を持ち、障害者枠で働く事を決め、もう一度頑張ってみようと思いました」


 そして小田は次に、松雪にとって衝撃の言葉を吐く。


「僕は、その障害者枠で入った会社で、障害の特性を馬鹿にされ、イジメを受けました」

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