欠陥品 5

「大人になって、就職をしたんですが、そこで僕は……」


 そこまで言って、溜めてからまた言葉を出す。


「また、人間関係が上手くいきませんでした」


「それは、どうしてですか」


「えーっと、僕の病気のせいです」


 何でもかんでも病気のせいにするなと、ちょっと松雪は思っていたが、言わないでおく。


「例えば、僕は聞き取れなかったことや、分からなかったことにも、どうしても、条件反射で『はい』って答えてしまうんです」


「えっ」


 どういう事だ、分からないことにも『はい』とは。


「後は、物忘れも酷いし、人の気持ちが分からない。人の気持ちを考えろって小さい頃から先生にも言われてました。僕も必死に人の気持ちを考えました。でもそれは全然見当違いで余計に怒られるんです」


 また小田は泣きそうになりながら言った。


「会社では『クズ』だとか『バカ』だとか『使えねー』って言われてました。それで辞めてしまいました」


 松雪は、それは酷い話だと思うと同時に、努力が足りないんじゃないかと思ってしまう。


「その、病気って治らないんですか?」


「治りません。精神病って言われてますが、前頭葉の異常です。僕は脳の大事な部分が機能していないんです」


「脳が……、ですか」


 脳の病気と言われても、思い浮かぶのは知的障害者だけだった。小田は会話は出来るし、そんな感じには思えなかった。


「それで、うつになってしまい。精神科に通っている内に統合失調症という病気、アスペルガー症候群やADHDといった病気も見つかりました」


「病気が分かって、スッキリしただとか、モヤモヤが晴れたって言う人も居るらしいですが、僕は違いました」


 小田の言葉に松雪は聞いてみる。


「違うと言うと」


「あぁ、僕は欠陥品として産まれたんだ、今までの大変な人生も、そしてこれからも、病気のせいで惨めな思いをして生きるんだって」

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