欠陥品 2

 体がフワフワする状態が終わると、松雪の前には1人の男が居た。


「こちら、待ち人の小田おだ蒔人まきと様でございます」


 小田と呼ばれた男はソワソワとしている。


 こんな空間なんだから無理もないかと松雪は思う。


「あの、えっと、お、小田です」


「あっはい、松雪と言います」


 お互いギクシャクした自己紹介が終わるとサハツキが言った。


「それでは小田様、先程ご説明した通り、今から小田様には死を望む理由を松雪様におっしゃって頂きます」


 一礼してサハツキは続けた。


「では、最後に……。もしも、お気持ちが変わった場合は、あちらのドアを開けて外へ御出になって下さい。その場合、二度とこの部屋で死へ導かれる事はありません」


「わかりました」


 小田は返事をする。真面目そうな人だなといった印象を松雪は持つ。


「それでは、私は失礼します、どうか良い結果になるよう祈っております」


 サハツキはドアを開けて出ていってしまった。小田は相変わらずソワソワとして目をパチパチとしている。


「あ、の……」


「はい」


 小田が何かを言いかけて、口ごもる。


「あの、し、死にたい理由を言えば良いんですよね」


「えっとまぁ、そうみたいですが……」


 松雪が返すと、小田は意を決して言った。


「ぼ、僕はっ。どうしようもない生き物なので死にたいんです」


 元から静かな部屋は、また静かになる。当然だが、小田の首に手形は浮かばない。


「ダメみたいですね…… えっとですね、もっと死にたい理由を詳しく話して頂きたいんですが」


 松雪に言われ、小田は下を向いた後に話し始めた。


「統合失調症や、アスペルガー症候群……、発達障害といった病気をご存知ですか?」




 不意に言われて松雪は一瞬頭が追いつかなかった。


 その後、一生懸命考える。


 統合失調症は何となく聞いたことがあった。アスペルガーってのは、ネットで支離滅裂な事を言う奴を馬鹿にして使われる『アスペ』って言葉だ。


 発達障害も似たような感じで使われているのを見たことがある。


「僕は、大人になって『感情性統合失調症』『ASD』という病気だと診断されました」


「かんじょう……、統合失調症ですか?」


「感情性ですね」


 聞いたことがない病名に松雪はうーんと、いまいちピンと来ていなかった。


「どういった病気なんですか」


 尋ねられて小田は答える。


「その、妄想や幻聴が聞こえたり、言ってることが支離滅裂になったり、フラッシュバックで過去の嫌なことを思い出したりする病気ですね」


 松雪は支離滅裂になると言う割にはちゃんと説明が出来る小田に疑問を持った。

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