夕食
その後、葉月とかさねは、奈緒子に言われた商品を探して来たり、荷物を持ったりして奈緒子を手伝い、夕飯前に寮に戻った。
夕飯は寮の食堂で食べる。部活動や委員会で寮に帰るのが遅くなる生徒もいるので、夕飯の時間は二時間くらいとってあるし、メニューは昼食のようには選べない。もし時間内に食事をとれなかったとしても、ラップをして共有の冷蔵庫に入れて置いてもらえるので、夕飯抜きになる生徒はいない。
かさねと葉月も、それぞれにルームウエアに着替えて食堂へやってきた。
かさねはフリルがついたかわいらしいロングワンピースの上にピンクのカーディガンを羽織り、葉月は水色のチュニックにグレーのパンツのセットアップのルームウエア。
中には学校のジャージ姿や、まだ制服のままの子もちらほらといた。
その中に、肌触りのよさそうなストライプのシャツワンピースとスエットのパンツをはいた詩織がいた。
「あ、詩織! 繭は?」
かさねが手を挙げて声をかけると、詩織は受け取ったばかりのトレーを持ってこちらを振り返った。
「かさね、葉月。おつかれ。繭は生徒会のお仕事があるみたいで、先にご飯食べててって連絡きた」
「繭、大変だね」
葉月がそう言うと、詩織はにっこりと微笑んで答えた。
「うん、来月、球技大会があるから、それの日程について話し合ったりするって言ってたよ」
「そっか~残念。ね、一緒に食べようよ!」
「うん、先に座ってるね」
かさねに誘われた詩織は、すぐ近くのテーブルにトレーを置いて腰かけた。
葉月とかさねも、トレーを受け取って詩織のもとへと向かった。
「ね、詩織、聞いて聞いて! とびっきりの怖い話仕入れてきた!」
「かさね? あの話する気?」
座るなり、かさねが身を乗り出して詩織にさきほどの心霊動画の話を始めようとしたので、葉月は驚いた。
「なあに? なんの話?」
詩織がきょとんと尋ねる。葉月は慌てて続けた。
「かさね、ご飯時にする話じゃないよ」
葉月は口を尖らせた。さきほどの、長い髪の少女の声を思い出すと、背筋が寒くなる。
「だいたい、動画のURLとか知らないでしょ?」
「動画のタイトルと投稿者の名前覚えてるからダイジョブ! すぐ検索すれば出てくるよ!」
「ええ~」
「二人とも、何の話?」
詩織が困ったように笑って言った。
「詩織さ、ここの山をさ、もっと奥に行ったら廃墟の遊園地があるんだって、知ってる?」
「え……?」
詩織の動きが止まった。
駅からくるバスの終点は、ここ「秀花学園前」だ。この山奥に続く道は、旧国道で、隣県に出る道路ではあるそうだが、今はこの秀花の横を通る道路ではなく、もっと別の新しい国道があって、そっちの方が近くて早くて広いため、隣県に行く人は皆そちらを利用する。
つまり、この秀花より奥に行く人間はほとんどいない……というわけだ。
当然、詩織もそんなことは知らないだろう。
「で、そこに幽霊が出るんだって」
かさねがまた、昼に怪談話をした時のように、怖がらせるような喋り方をしようとしたので、葉月は割って入った。
「あの、そこに行った動画をネットにあげてる人がいて、それをさっき見たの。幽霊が映ってるっていうヤツ」
できるだけ、どうでもよさそうに、冷静に話した。さすがに、かさねにおどろおどろしく話されたら、あの時のゾっとした感じをまた、まざまざと思い出してしまうかもしれない。
「もう~葉月~! あのね、それでその幽霊がさ、ながーい髪の女の子でね。秀花の制服を着てたの!」
「……ッ!」
――あれ?
詩織の顔が、見たことがないくらいに緊張している……ように見えた。
「それ、本当?」
少し上ずった声になっている気がする。何だか、詩織らしくない。
「こ、怖いよね! 見たくないよね? ごめんね」
「ちょっと~葉月、何で謝るのよ~! 詩織、怖い?」
かさねが口をとがらせながら聞くと、詩織は、ハッとした。
「ううん、おもしろそう。その動画、見てみたい」
「えっ?」
詩織は、いつものように落ち着いた様子で、悪戯っ子のように笑ってそう言った。
さっきの様子は、とても面白そうと思っている人間の顔には見えなかった。
「でしょ~! 詩織ならそう言ってくれると思ってた! ね、ご飯終わったら、ウチらの部屋に来なよ。一緒に見よ」
「えっまた、見るの? 私たちの部屋で?」
葉月は露骨に嫌な顔をした。
「え~! 葉月怖いの? ダイジョブだって! 私が着いてるから!」
かさねは、にやりと笑って、葉月に抱き着いてきた。
「怖かったら一緒に寝てあげるから~」
「それはいいよ」
「えーっ葉月、塩対応~っ」
かさねが葉月にさらにすり寄ると、詩織は楽しそうに笑った。
「じゃ、ご飯食べ終わったらそっちの部屋に行くね。繭が帰ってきたら、一応一緒に行くか聞いてみる」
繭が怖いもの見たさであれを見てしまったら、もう眠れなくなるんじゃないかな……と、葉月はかさねにハグされながらこっそり思った。
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