神様のカルーセル
祥之るう子
プロローグ 「飛び降り」
いつもと変わらない、気怠い午後の授業。
その日、その時も、そうであるはずだった。
大きな四角いセーラーカラーが印象的な、黒いワンピースの制服姿の女子高生で埋め尽くされた教室。
みんな、まじめに教師の話を聞いているなか、窓際の少女が一人、ふと視線を窓の外にうつした。
特に意味もない、何の根拠もない、本当に何となくの行動だった。
山の中腹あたりにある校舎の三階。ここから見えるのは、木と空と、鉄塔だけ。
校舎から一キロほど離れたあたりの森の中にぽつんと立つその鉄塔は、この教室の生徒たちが入学したころにできたもので、携帯電話の電波塔だという話だ。
木々の高さをゆうに追い越す、鉄色の円錐形のそれはいつも、無機質なくせに異様な存在感をもってそこに建っている。
だが、今日はいつもと違っていた。
授業中だということを忘れて、窓際の生徒は目をこらした。
小さな影……黒い影がうぞうぞと鉄塔を這い上っている。
見間違いだろうか。
いや、確かにいる。
今まさにてっぺんに上り切ったその影は――人影だ。
そう、彼女が思った直後。
その人影は、なんのためらいもなく。
空に身を投げ出した。
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