学院時代の同級生に出会う

 

 一月が経ちましたが、未だに仕事は見つかっていません。ギルドで傭兵の登録をして何度か細々と傭兵の依頼を熟しましたが、お金は減り続けています。


 このままでは本当に娼館行きです。傭兵に出されている依頼を受けられれば食い繋ぐことは辛うじてできると思いますが、ずっと生活は苦しいままでしょう。


 これは王都で仕事を探しているからでしょうか? 他の街へ行けば仕事は見つかるのでしょうか。ですが他の街へ行くことで良い結果が得られるとは思いません。

 私が王都に留まっている理由は、他の街のことをあまり知らないからというのもありますが、王都の方が仕事の種類や数が多いからです。


 まあ、私に出来ることとなると仕事の範囲が狭まるので選択できる仕事の種類はそう変わらないのですけれど。


「はぁ」


 傭兵としての仕事を終えた後、それで手に入れた少しの報酬を使い王都広場にある格安屋台で売られていた具の入ったパンを買いました。そして広場のベンチに腰掛けます。


 残念ながら今回手に入れた報酬では一日分の食事と宿代を賄うことはできず、また所持しているお金が減るのです。

 しないよりはマシなのですが、報酬が労力に合っている気がしません。


 新人の傭兵ということもあってまともな依頼を受けられないのですよね。それにそういう者へ出されている依頼というのは手伝い系のものが大半なのです。しかも、依頼外のこともついでにと頼まれることが多く、それに対する報酬もありません。

 断れれば良いのですが、断れば依頼を完了したとしても依頼人からの心象を悪くするため、下手をすると次の依頼を受けることができなくなります。

 さらに言えば、それをちらつかせて過剰に手伝わせるような依頼人もいるくらいです。ギルドにこのことを言ったところで傭兵になれば誰しも通る道だと言われろくに取り合ってもらえません。


「はぁ」


 パンを食べ終えたところで再度ため息が出てしまいました。


 手っ取り早く慣れるということで傭兵も最初は選択肢に入れていましたが、このまま変わらずだと生活は難しいかもしれません。もう少し積極的に依頼を受ければ良いのでしょうけれど、それも傭兵としての信頼がなければ出来ないことです。


 そもそも成人してそれほど経っていない貴族出身の女なんて、そう簡単に信頼されません。傭兵としても使えるとは思われ辛いでしょう。

 魔法とメイド業で培った家事だけなら自信がありますが、傭兵は魔法が使えない人たちが大半の職業なので、魔法が必要とされる依頼が出ること自体稀だそうです。


 まあ、娼館でもこの技能は使う必要はないので完全に宝の持ち腐れ状態になるのでしょう。


「はぁ、どうしましょう」


 本当にどうしたら良いのでしょう。


「ん? そこに居るのは……クレドだったかな?」

「はい?」


 もう私にはない家名を呼ばれ、私は地面へ向けていた視線をその声が聞こえて来た方へ向けました。そして、視線を上げた先にはどこかで見たことがあるような顔の男性が立っていました。


「たしかクレド……ネイ・クレドだったよな?」

「そうですが……」


 目の前にいる男性は私のことを知っているようです。歳も私と近い感じがしますし、学院時代の知り合い……同級の方でしょうか。騎士団の装備を着けているのではっきりとはわかりませんが。


「あぁ、わからないか。そういえば直接話したことはなかった気がするし、授業自体もそれほど被っていなかったよな」

「そう……なのでしょうね」


 こう騎士団の装備を身につけているということは学院では騎士になるための講義を選択していたでしょうし、学費の関係で私は貴族としての知識を得るための最低限の合議にしか出ていませんでしたから。あまり会わなかったのは当然だと思われます。


「えっと、まあ、名乗れば思い出してもらえるかな? 君と同じ年に学院に入学したジェスク・ハレスレイだ」

「ハレスレイ?」


 ハレスレイと言えばクレド家と同じ伯爵位の家だったはずです。ただ、クレドとは違いそこそこ力のある家だったと記憶しています。


「最初の親睦会で何度か話したことがあったと思うのだけど」

「……そう言えば確かにそんなことがあったような。親睦会の時にいきなり話しかけてきた方がいたような気がします」

「ひどい覚え方だ」


 親睦会の時の記憶はあまり良いものではないので思い出したくはないのです。他の伯爵家の令嬢たちが晴れやかな衣装を纏っている中で、私だけが普段通りの服装だったというくらい記憶です。

 本来なら私も衣装を纏って親睦会に参加する予定だったのですが、お母様が予定していた衣装の製作を無断で破棄していたのです。それに気づいたのが親睦会の3日前。どうすることも出来ずに私は普段来ている中で一番上等なものを着て参加したということなのです。


 私がもっと早く衣装の製作が破棄されていることに気付けばどうにかなったのでしょうけれど、お母様の製作が進んでいるという言葉をそのまま鵜呑みにしていた私にも問題はあるでしょう。

 そうして私は親睦会の場で、陰ながら他の令嬢に後ろ指を刺されることになったというわけです。そんな沈んだ気持ちの中で声をかけられればそう考えても馬鹿にしにきていると思うでしょう。


 そういうわけで私は親睦会で話し掛けられたらすぐに場所を移していたので、話しかけてきた相手はそれほど注視していなかったため、この人のことを覚えていなかったのは仕方のないことなのです。


「えぇと、それで何か御用でしょうか?」

「いや、用というほどではないけれど、何か思い詰めているようだったから声を掛けたんだ。なんとなくあの親睦会の時と同じような雰囲気を纏っていたし」


 話しかけてきた時の表情からして揶揄うような感じではありませんから、このかたは本当に気になっただけで声をかけてきたのでしょう。もしかしたらあの時に話しかけてきたのも、こういう気持ちだったのかもしれません。


 ですが、気になったからと言って大して知りもしない相手に話しかけるのはどうしてでしょうね? 

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