社会について③
『法律』。
例えば、ひとりがサボってゴロゴロしているだけでは、社会への影響は少ないかもしれません。
しかし、仕事は辛いのです。『あいつがゴロゴロしてるなら俺もしよう』と思う者が現れても不思議ではありません。
その調子で、全員が仕事をしなくなるとどうなるでしょう。
食糧は誰も獲ってきません。
誰も子供の面倒を見ません。
いつか死ぬでしょう。
『生活する』という当初の目的が達成されなくなります。
実際は死ぬ前に『死にたくない』人は自分達の分だけでも仕事をすると思いますが、それはもう『村』『組織』である必要がなくなってしまいます。本末転倒ですね。
『死にたくない』。
『効率良く安全に生活する』という『社会』の恩恵を受けたい。
そして『ゴロゴロもしたい』。
人間はワガママな生き物です。そんなズボラな願いは叶うのか。
叶います。
『数人はゴロゴロしていても影響は少ない』。これが肝ですね。これを利用して、サボり魔はずっと毎日サボっていた訳です。
Aは言います。
『これからは交替でゴロゴロする日を取ろう』と。
要するにお休みの日を設ける訳ですね。毎日必要な全体の仕事量は変わらないので、全員が同時に休むことはできませんが、一定の間隔と順番を決めて交替で休むことは可能です。これなら、全員がゴロゴロできつつ、『社会』の恩恵を崩さず村を回していくことが可能になりました。
続いて、『冬備えがどれだけ必要か』問題。
Aは、数日掛けて村中を回り、村の規模、総人口、消費する食糧の量などを正確に調べました。これにより、必要な量を計算して求めることが可能になりました。
『把握』です。これが重要。これを機に、Aは村のことをなんでも知ろうとするようになりました。どこの家庭に赤ん坊が生まれたとか。男女の比率とか。年齢の比率とか。村の面積や、周辺で獲れる動植物の種類。
村人達は、分からないことがあればAに聞くようになります。Aはなんでも知っています。なので、『どうすれば良いか』分かるのです。
『状況』を把握することで『問題』が生じた時に、『解決』できる『手段』を導き出すことができ、その成果をもって、村人から信頼されていきます。
『この村のことをどうするのが良いか』。これを考えるには情報収集が必要です。情報が無いと何も判断できません。
それをこなすAは、村を引っ張っていく存在になります。
原初の『
一度リーダーになったら大変です。一日中村を駆けずり回り、村人達と話し、情報収集に奔走します。さらには村の内外で起きる問題を全て把握し、解決策を考え、それを共有し、実行させなければなりません。
解決策がもし間違っていれば、問題は解決されないどころか最悪死人がでます。『生きたい』が達成されませんからね。冬備えの量を誤れば、餓死者が出るでしょう。
人の命、人の家族の命を『左右する』リーダー。間違っていた場合、村人から糾弾されるかもしれませんね。『お前は村のことを何でも知っている筈なのに何故間違った方向へ導いたのか』と。
責任。プレッシャー。普通の村人と比べてとてつもない疲労心労。
それを理解している村人達は思います。『Aさんはあんなに村の為に頑張っている』と。
『他の村人より働いている。だから、良い服と良い肉はAさんに使って貰おう。食べて貰おう』と。
『自分達のリーダーだから』と。
Aは、情報収集と解決策思案に押し潰され、このところ狩猟も他の仕事も行えていません。『生きるため』の『食糧集め』をやっていないのです。ですが、誰もサボりだとは思いません。だってAのやっていることは、村を守るためのことだと分かっているから。
これまでは『狩猟採集』がイコールそのままダイレクトに『生きるための肉』でした。
そして今度は、『情報収集と解決策思案』=『生きるための肉』となったのです。
――
「ああ。飲み水の確保はどうする? ゼロから火は起こせるか? 菌や寄生虫を対策した寝床はどう作る? 食べられる草と毒の区別は? 急に嵐が来たらどうする。家の建て方は。病気は? 怪我の対処は。仲間の女がもし身籠ったら、どうやって取り上げる? 安全な場所をどのように確保する? そんな生活を、恒久的に、一生続けられるか?」
エフィリス
『GLACIER(グレイシア)』
第61話『反則(チート)』より
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