これだから異世界帰りは!!

きぬもめん

異世界マウントやめてください

 私立名労慧学園。

 ここでは人間、亜人、獣人、ロボット。様々な種族が通う名門校。

 誰もが力、特殊能力を得ることができる夢の学園である。


 しかしその夢を手に入れるためには超えなくてはならないハードルが存在するのだ。


 それは――――――、卒業までの間に異世界転生を済ませておくこと。

 

 そして僕はいまだに異世界転生できていない、所謂異世界童貞なのであった。


※※※


「昨日帰って来たわ。異世界まじやば」

「それな。そっち魔素派? 魔力マナ派?」

「MP派。冒険しようと思ったら勝手にデスゲーム始まってぴえん超えてぱおん」

「マジ? やばたん」

「意味わからんから転生させた女神全員でボコって帰って来た」


 今日も聞こえるぞ異世界帰りたちのマウントが。

 なるべく聞こえないふりをしながら廊下を通り過ぎる。うらやましいなんて思ってないし? 

 別に? 痛い思いとかしない方が得だし?


「あ、トウマじゃん。異世界童貞の」

「マジ? 今時無転生とかありえなくない?」

「無転生が許されるのは中等部までだよねー!」


 うるせ~~~~~‼ こちとらやりたくて転生してないわけじゃねえ~~~~‼


 だが悲しいかなこの学園ではもう九割が異世界転生経験者。

 僕みたいなのは悪目立ちする定めなのだ。

 異世界童貞のトウマ。無転のトウマ。それが僕のあだ名だ。

 畜生人を無添加物みたいなあだ名で呼びやがって! 今に見てろ!


「おいおい何やってんだよトウマ」

 しかしそんな僕の肩をそっと叩く存在が一人。

「ここにいたら通行の邪魔だ。隅に寄ろうぜ」


 彼はタナカ。異世界に転生したが信頼していたパーティを追い出されたものの隠されていたチースキルで仲間を見返し世界を統合させた追放系魔導士。

 自意識が低いもの同士、僕と仲良くしてくれる奴の一人だ。


「この間も聞かれたよ。『マジで補助魔法バフかけながら禁断魔法グランドマジック使えんのかって』これって、使えなさすぎ……って意味だよな?」

 それ十分前に同じこと聞いたよ。


 ただ決め台詞がちょっとうざいのが玉に瑕だ。



「トウマお前まだ転生してなかったのか」

 驚くのも無理はない。この学校に来る奴なんて半数以上異世界目当てだ。もう半数は異種族フェチが通ってる。

 ただ僕だって転生したくないわけじゃない。ただちょっと、やり方に抵抗があるだけで。


「大丈夫だ、すぐ終わるから」

 なんで異世界転生の入り口ってトラックな訳???

 いくら転生だからってそこまで徹底的に命破壊しなくても良くない?

「最近はトラクター転生とか通り魔に刺されて転生とかもあるけど」

 転生者の命簡単に刈り取られすぎじゃない?

 どうしてか知らんが最近はやりの無痛転生でなく、この学校は古式ゆかしいトラック転生を推奨しているのだ。

 無痛転生には学費の上乗せが必要になる。畜生結局金か。


 というかそこまでぽんぽんトラックに飛び込むもんじゃないだろう。トラックの運転手さんの未来も考えよ?

「何を言う。老若男女問わず誰か困っていれば飛び込むだろう」

 横断歩道で困ってる奴多すぎ問題。

 この国の交通から改善すべきなのかもしれない。


「…………痛くない転生って、お前も面倒なこと考えるよなあ」

「お、スズキじゃないか」

 欠伸をしながらやれやれとやってきたのはスズキ。「やれやれ」と「まったく」が口癖のどこぞの幽波紋スタンド系男子みたいなやつだ。面倒くさがりで基本首を突っ込みたがらない。

 

 転生先で討伐ガン無視で拾った女の子と辺境スローライフを送っていたところをどうしてか敵に見つかりボコボコにした後また辺境に籠ってイチャコラしていた男だ。ちなみに女の子の肝心な告白は全部スルーする。耳にところてんでもつまってるんじゃなかろうか。

 ちなみに「外伝アウトサイドスキル:魔眼アルマティニヒアイ」はレベル9999らしい。

 比較対象がないからすごいのか良く分からん。


 ちなみにすぐ女の子の頭を撫でたがるので陰で「頭ポン太郎」と呼ばれている。


「多分一瞬だろ。多分。腹くくれ」

 嫌だが?

「やはり困っている人を助けた方がいいんじゃないか? 手始めにスクランブル交差点で張り込みとかどうだ」

 話聞いてました?


 タナカもスズキもいい奴には違いないがどうもこう異世界マウント取りがちだし基本異世界思考で参ってしまう。

 僕が求めているのはこう楽に力を手に入れつつその力で無双して「あ、僕なんかやっちゃいました?」って言う感じの……。



「あら、無転のトウマ様。殿方がそのようなお考え情けなくてよ」

 異世界悪役令嬢でありとあらゆるイケメンを突っ張ね最終的にメインヒロイン令嬢を落とした悪役令嬢のミヤビ!


「そうだよ。人間死んでもどうにかなるんだから」

 召喚系聖女として召喚され一時は偽聖女の出現により立場が危うくなったものの持ち前の機転と全てを治すゴリラ聖女パワーで敵国どころか異形の魔王すら手玉にとった聖女のアサヒ!


「駄目だよ二人とも、人には向き不向きがあるんだから。ね、トウマ君」

 異世界転生勇者として転生したもののあまりに扱いが不遇どころか王国がばりばりブラックで闇落ちしかけたところを魔王にスカウト。その後適正環境ですくすく育ち立派な魔王の右腕として世界を支配した悪魔ディアボロのサイトウ!


 

 その後も彼女たちからの助言にもいいものはなく、僕はとぼとぼと帰路についていた。



※※※


 ………駄目だ、僕の周りには異世界経験者しかいない。役に立つ知識なんてない。

 きっとこのまま異世界童貞で終わるんだ。

 ふふ…………ムテンのトウマか。回転ずしみたいだな……。


 もう今日は帰ってツクールの必殺技考えて寝よ……。

 しかしそう思った時。


「何なさいますの! 離してください!」

 悲鳴だ。この言葉遣いは、ひょっとしてミヤビ?

 声のした方に向かえば他校の生徒にさっき会ったばかりの女子三人が絡まれていた。


「なんだよみょうちきりんな言葉使いやがって!」

「離しなさいあなた方のような蛮族に付き合う暇はなくてよ!」

「誰が蛮族だ日の元の言葉でしゃべれやオラァ!」

 

 駄目だ、ヤンキーに彼女の悪役令嬢罵倒は難しすぎて通用しない!


「お、女の子に手ぇあげるなんてサイテー!」

「んだとそっちが思いっきりたっくんの学ランにソフトクリームぶちまけたんだろうが‼」 

「お、俺の学ラン………クリーニング出したてだったのに」

「見ろたっくんの単ランが白ランになっちまったじゃぁねぇか―――ッ‼」

「泣いちゃたじゃねぇか――ッ! どうしてくれんだクルルルァッ‼」


 駄目だ。あれは全面的にアサヒが悪い。

 一番頼りになりそうなのはサイトウだけど……。


「ごごごごごごごめんなさい急いで魔王を倒しに行きますすぐ行きます」


 怒鳴り声にトラウマスイッチが入ってしまっている。畜生パワハラ国王が!


 これは女子三人のピンチだ。ここで颯爽と駆けつけられたなら。

 でも、僕に力はない。なんたって無転のトウマだ。何ができる訳………………。



「おいおい。何してんだよトウマ。絶望するには早すぎるぜ」

「ふあ、面倒なことに巻き込まれやがって」


 追放系のタナカ! やれやれのスズキ! まさかこんないいタイミングで来てくれるなんて!

 いつもの異世界節が今日は頼もしくて仕方がない。


「仕方ねえ、俺たちでやるぞスズキ! 俺が補助をする。お前が突っ込め!」

「はいよ、あーあ。かったるい」


 二人は果敢にヤンキーに飛び込んでいき――――――。


「うおおおおっ、『補助魔法:防御全種攻撃全種補強オールパーフェクト』!」

「――――外伝アウトサイドスキル、魔眼アルマティニヒアイ起動。弱点露出、開始」


 そして渾身の一撃がヤンキーにとどめを――――――――――――。





「なんだこいつら」

「………さあ?」

 ささなかった。


「………俺、のスキルが発動しないッ、だと⁈ クソ、スキルも無しにどうやって戦えばいいんだ!」

「――――――く、だから本気は嫌なんだよ」

 二人とも格好つけているけど彼らのスローなパンチをヤンキーがそのまま避けただけである。

 というかここは異世界じゃないのだ。スキル云々なんてつかえないんじゃ……。


 じゃあつまり、ここにいるのは僕だけだ。僕しか、彼らを助けられない。

 でも、でも。頭をさっき言われた言葉がリフレインする。

―――あいつ無天だよ。

―――許されるのは中等部までだよねー!


 そうだ、僕は異世界転生をしていない異世界童貞。無天と蔑まれ何の力も持ってない。

 だから、僕にできることなんて。

 そう思うのに頭をよぎるのはみんなの笑顔だ。


―――これって使えなさすぎって、意味だよな?

―――やれやれ。

―――婚約破棄してからが本番でしてよ。

―――死んだら生き返るしどうにかなるって!

―――そうだ、王国潰そう。


 ちょっと思い出さなきゃ良かったところもあるけど。

 そうだ、彼らを助けられるのは僕しかいない。

 異世界転生してないかなんて、友達を助けるのに関係あるもんか!


「ま、待てっ!」

「なんだァてめェ…」

「俺らたっくんの学ランさっさとクリーニングしに行きてえんだよ」

「………ぼ、僕、僕はッ!」

 

 拳を、握りしめる。


「僕はムテンのトウマだァ―――――――――ッ‼」


※※※


「かっこよかったぜ、トウマ」

「はあ、かったりぃ」

 結果は惨敗。

 と言うか僕が勝手に地面に突っ込んでるところをヤンキーが不思議そうな顔で見てただけだけど。

 でも、僕でも勇気が出せた。異世界転生者じゃない僕でも!


 二人の友を見る。そうだ、異世界転生じゃないことを恥じることなんてこれっぽっちもないんだ! 

 僕にはこんなにも頼もしい友がいる!



「あ、俺回復士のメアリーとこれからデートあるんだった。先帰るわ」

 あれ?

「あ―俺も、セナとルベルとニャンミーが待ってっから。お先」

 あれ??


 そして二人の視線の先には見目麗しい美少女たち。

 僕は一人残された公園で叫んだ。



「これだから異世帰りは!!!!!!!!!!!!!」

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