第83話 告白

「いらっしゃーい、どうぞ! 焼きそば美味しいですよ!」

「お化け屋敷どうですか! チョー怖いですよ!」


 今日は文化祭最終日。

外のお客さんも劇を見に最も多く訪れる。

だから各クラスも呼び込みに力を入れる。


 ただ一つこのクラスを除いて…。


「もうこないでくれぇぇ!!」

「朝から行列がとぎれねーぞ」

「卵切れそうだ、かってこーい!!」

「フライパンの振りすぎで腱鞘炎になる!」


 ここは2-1の厨房。

目まぐるしく動く男子生徒達。

なぜなら出し物であるメイド喫茶のオムライスの注文が途切れることがないからだ。

その理由は、もちろん。


「なんて書きましょうか…」


「では、一世LOVEと…」


「あなた浮気なの?」


 真剣な表情で、ひと回り下のレイナにお願いする田中一世。そして妻の田中みどり。

文化祭も最終日ということで遊びにきてくれたようだ。

対応するのはメイド姿のレイナ。

教室を使って作られた喫茶店に座る全員がレイナの方向を見ながらオムライスを食べる。


「剣也君は?」


「厨房で頑張ってますよ」


「はは、盛況そうでよかった。そういえば60階層まで到達したんだってね」


「はい、剣也君が頑張ってくれたおかげですごい装備になりましたから」


 剣也とレイナは60階層へと足を進めていた。

レイナと剣也の装備はすべてSランクへと至っている。

その結果二人の能力は60階層へと到達した。


 61階層からはまだ攻略してはいないし、踏み入れてもいない。


「あと10階層だね」


「はい…」


 70階層であの塔は終わる。

それは天道龍之介から剣也へと伝えられた。

彼が60階層へと至ったとき剣也達がダンジョンで聞いた時と同じ声であと10個先が終わりと言われたそうだ。

だからそこがきっとあの塔の終わり。


「じゃあ、他のお客さんも待っているだろうし失礼するよ。午後からの劇楽しみにしている」


 すると田中さん達が席を立つ。

あれから田中夫婦は失った10年を取り戻すように毎日のようにデートしているらしい。

ラブラブそうだ。


「あ、ケチャップ切れちゃった。レイナちゃーん厨房に取りに行って」


 早乙女がレイナに頼む。

本当なら他の人でいいのだが…。


「はい!」


 レイナが喜ぶのでレイナに頼む。


「剣也君。ケチャップをください」


「レイナ! あいよ!」


 厨房でせわしなくオムライスを焼く剣也。

意外と手先は器用なようで次々とオムライスを焼いていく。


「頑張ってね、レイナ」

「はい、剣也君も」


 ケチャップを手渡す剣也。

受け取るレイナ。

なぜか二人の間に幸せな空間が流れて時が止まる。

見つめ合う二人、鳴り響く怒声、燃え上がるオムライス。


「御剣氏! オムライスが焦げておりますぞ!!」


「あ! ごめん! じゃあレイナまたね」


「はい!」


 そんな盛況なメイド喫茶もお昼を超えて終了する。

間違いなく売り上げは断トツとなったので打ち上げが楽しみだ。


「じゃあレイナ回る?」


「はい! お願いします!」


 満面の笑みでレイナが答える。

午後の劇までは少し時間があるため文化祭を二人で回ることになっている。

あの日一緒に回ることを約束したから。

思い出す剣也はつい、あの時のレイナの裸も合わせて想像してしまう。


(綺麗だったな…それにメイド姿のレイナはめちゃくちゃかわいい。いたずらしたくなる)


「剣也君何食べたいですか?」


「へぇ!? あ、あぁそうだな、無難に焼きそばとか?」


「適当に回りながら色々食べましょうか」


「そうだね、たくさんお店はやってるし」



「レイナさん! 焼きそばどうですか?」

「いただきます」

「レイナさん! たこ焼きもどうですか!」

「いただきます」

「レイナさん! 豚汁どうですか!」

「い、いただきます」

「レイナさん!」「レイナさん!」「レイナさん!」


 出店の前を通ると必ず声を掛けられるレイナ。

メイド姿のままのレイナの破壊力はすさまじく、歩くだけですべての人間を魅了する。

美人は得だというが、それを体現するかのように両手いっぱいに食べ物を持つレイナ。


「はは、どこかで座って食べようか」

「はい、皆さん親切ですね」


(レイナだからだよ…)


 そして二人は外のベンチへ座る。

食事スペースなので多くの人が食事を楽しんでいた。


「緊張しますね」


「劇が?」


 食事を楽しみながら談笑する二人。

この後劇が控えている二人、緊張はするが楽しみでもある。


「たくさん練習したから大丈夫だよ」


「そうですね、きっと……成功しますよね」


「あと2時間ぐらいあるし、他も色々まわろっか」


 食事を終えた剣也達、お化け屋敷や、夏祭りのような射的やスーパーボール。

クレープ屋さんなど多くの出し物を楽しんだ。

幸せな時間、こんな時間がずっと続けばいいのに。


「剣也君占いですって。どうですか?」


「占いねぇ。あれってそれっぽいことを言って当てるやつでしょ?」


「いいんです。それでも楽しければ」


(なぜ女の子は占いが好きなのか…)


 レイナに引っ張られながら剣也は占いの出し物をしている教室に入っていく。

自然と手をつないでいるのだが、それに気づいているのは剣也だけのようだ。


(い、勢いで手をつないじゃったーーー!!!)


 そんなことはなくレイナもばっちり意識している。


 しかしレイナの気持ちを剣也が知る由もなし。

外すタイミングを失った手は繋がったまま占いの部屋に入る。

レイナは外したくないし、剣也も外したくない。

ならばつながったままなのも仕方ない。


「あ、あの手を見せていただいても?」


 水晶の前に座る占い師。

手相占いをするようだ。その一言で慌てて手を放す二人。


「ラブラブですね! カップル占いでよろしいですか?」


「カ!? カップル占い?」


 剣也が素っ頓狂な声を上げる。


「はい、大丈夫です」


「レイナ!?」


「では始めます。お二人の手を出してください」


 流れるように占いが始まる。

カップル占いなんて聞いたことがないが。


「えーなになに?」


 すると占い師が本を見ながら手相を読みだした。


(せめて覚えろよ…)


 タイトルはカップル手相相性占い。

すごく俗物的な本なのだが、それを読みながら手相を読んでくれるようだ。

とはいえ売ってある本ならそれほど変な内容ではないだろう。


「お! お二人の身体の相性は最高ですよ!」


 最低だった。


「剣也君と身体の相性が最高……」


 横でレイナが赤くなる。


「ほ、他はないのか? もっと普通の感じの!」


「そうですね、うーん。あ! この項目なんていいですよ。二人の未来! えー二人は一度引き裂かれますが、思い続ければいつかまた出会えるでしょう…だそうです!」


(だそうですって…)


 あまりに抽象的な占いの内容に絶句しながらもレイナ的には満足なようで占いの館を後にする。


「楽しかったですね」


「そ、それならよかったよ…」


 ほかの項目もどうなってるのか少し気になる剣也。

今度あの本買ってみよう。


「じゃあ、時間だし劇の準備に行こうか」


「はい!」


「うぉ!?」


 すると少し大きめの地震が剣也達を襲う。

大き目といっても震度3ぐらいだろうか、地震大国のこの国ではまたかとしか思わないほどの震度。


「最近多いね」


「そうですね」


 剣也の中に胸騒ぎが起きる。

しかし頭を切り替えて劇が行われる体育館へと向かっていく。


「じゃあメイクするねー」


 早乙女さんがみんなのメイクを始める。

衣装を着て準備を始める。


「緊張してきましたぞ!!」


 横で大和田がテンション高く緊張してるとは言えないような声を上げる。


「はは、がんばろうね」


「さぁ、決めて来い! レイナちゃん!」


「はい!」



「えー次は2-1の劇 新訳ラグナロクです。見どころは本物の装備品を使った本物の勇者レイナさんの登場とのことです。どうぞ!」


 そして僕達の劇が始まった。

流れは大きく変更されていないが、30分の劇なので一部省略している。



 荘厳な音楽。


「ユグド…さようなら…」


 そして燃やされるレイナ。

連行される剣也は檻へ、そして現れる悪神。


「力が欲しいか…」


 そして剣を受け取る剣也。

(非具現化設定解除っと…)


 直後現れる禍々しい装備達。

進化した剣也の統一感のない装備は漆黒の胸当てをはじめとする黒の魔王。

っぽい見た目をしていた。


 Sランクという今発見されている装備品の中でも最上のランクを身に纏った剣也。

その覇気は見ているものを不安にさせる。

実際この力を使えばこの学校ぐらい一瞬で壊せるほどの規格外の力。

小国に匹敵する軍事力がたった一人の男の手の中にある。


 その事実は、事実を知らないものにも見るだけで不安にさせ、ため息を会場に充満させた。


 そして剣也が衝撃波を発生させる。

正確に言えば音を超えた時のソニックウェーブの小さいバージョン。

しかし衝撃波本物で観客へと空気の振動として伝わった。


 会場からは悲鳴が漏れる。


(よし、掴みは良い感じかな)


 灰になったユミルを見つめて、怒りをあらわにする剣也。

そして剣也は用意されていた混凝土を本当に砕き、再度衝撃波を発生させる。

本当に空気を破裂させる威力で会場に破裂音を響かせる。


 話は次々と進んでいくが、本物の装備品を使った演技の迫力がすさまじく会場のボルテージも上がる。

そしていよいよ、彼女の登場。


 黄金色に輝く鎧を身に纏ったレイナの登場。

そしてこの装備も本物だ。

あの名もなき防具達を進化させた結果黄金色の装備へ至った。


 光り輝くとまではいかないが、十分の光沢を纏った黄金色の防具だった。

 

 その神々しさは本物で、見ている人から綺麗だという言葉も漏れる。


 そしていよいよ最終決戦。


 レイナと剣也が切り結ぶ。

本気ではないにしろ、事前の打ち合わせである程度の力で本物の剣で切り結ぶことになっている。

しかし共にステータスが万を超える二人。


 ある程度だけで人が死ぬ。

剣を交えるたびに鳴り響く剣戟の音と衝撃破。


 見ているだけでハラハラするその攻防も終わりが見えた。

そして二人の胸を剣が貫く。

脇に挟んでいるだけではあるのだが、客席から見たら貫いたように見えるだろう。


 直後レイナの防具が消える。

非具現化設定にするだけだ。


 見つめ合う二人、そのまっすぐな瞳に見つめられる、吸い込まれるような蒼い瞳に剣也見惚れる。

そして最後のキスシーンへ。


(する振りだけど緊張するな……レイナもか)


 うつむくレイナ。

そして何かを決心したように声を出す。


「好きです……」


「え?」


「愛してます、いつまでも」


 不意にセリフとは違う言葉に剣也は小声で驚く。

直後すぐにセリフに戻ったが、レイナの口調になってしまっている。


「俺も! 俺も愛してる。俺もずっと君を!」


 動揺しながらもセリフを続ける剣也。

 

 そして二人のキスシーン。

もちろんする振りだけなので剣也がレイナに顔を近づける。

 

 そこで剣也にだけ聞こえる小声でレイナがつぶやく。


「好きなんです、剣也君。あの日からずっと。あなたのことをずっと考えてしまう」


 レイナがうつむき震える。

そして意を決したように顔を上げる。


「レイ…!?」


 振りをするだけだったはずなのに。

キスする振りだったはずなのに。

レイナが不意に唇を近づけて、優しく触れる。


 そして離れたかと思うと満面の笑みで。

そして真っ赤な顔で、剣也に微笑みかけて口を開く。


「あなたが好き」

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