第82話 母の指輪とレイナの装備

「じゃあ、レイナ、美鈴。僕と奈々は母さんの病院にいってくるから」


「私達も行った方が…」


「いや、母さんも気をつか…まぁつかわないだろうけど元気になってからでいいよ、まだ確証もないしね」


 剣也は奈々の帰りをまって、完治の指輪を使って母の病気を治すために病院へ向かう。



「母さん!」


「なんだい、いきなり二人で…」


「実は母さんにつけてもらいたいものがあるんだ」


 二人は剣也の母親が入院している病院へ。

相変わらず見た目とは裏腹に元気な母を見て一安心する。


 そして剣也は指輪を見せる。


「なんだい、指輪なんて…今更おしゃれしても仕方ないってのに……も、もしかして実はもう私は死ぬのかい?」


「ち、違うよ! これはダンジョン装備で、病気を治してくれるんだ。もしかしたら母さんも治るかもって」


「そんな不思議な力があるもんかい、まぁダメで元々つけてあげるけど期待するんじゃないよ?」


「はいはい、お母さんじゃあ私がつけてあげる」


 すると奈々が指輪をもって母の指を手に取る。

しかしそこには結婚指輪、意識してみたこともないがまだつけているとは。


「なんだい、いいだろ? あの人の形見なんだよ」


「ううん、なんか嬉しくって。じゃあこっちの手につけるね」


 そして右手を手に取り、指輪をはめる。

みどりさんのときと同様に光が包み込む。


「なんかあったかいね…」


「どう?」


「どうって言われても気持ち楽になってきた気がするけど…」


(治癒力は本人依存と書いてあったのでしばらく時間がかかるのかもしれないな)


「じゃあそのままつけといて、また明日様子見に来るから」


 そして剣也達は先生に説明を行ってその日は後にする。

ガンに対して有効なのかはまだ分からないが、もし効果があるなら少しは変わるはずだ。


「良くなるといいね」


「そうだな、もしよくなったら住む場所どうしようか」


「うちの部屋がないしね。新しいマンション借りる?」


「とりあえずしばらくは今の家に住んでからだね。母さんの意見も聞こう」



「どうでしたか?」


「すぐにはわからなさそうだから、明日また様子を見に行くよ」


「お母さんか、嫁姑問題が発生しそうね…」


「なんですか?それは」


「あれです、机をスーッと指でなぞって、レイナさん? これはなに? って言ってくる奴です」


(どんなやつだよ、でもよくなってほしいな)


 剣也達の心配をよそに翌日の朝。

インターホンの音と共に扉を開ける剣也。

そこに立つのは…。


「母さん!?」


「すごい家に住んでるねぇ! あんたにそんな甲斐性があるとは」


「え? 体調は? どうなってんの?」


「あれから見る見るうちに体調がよくなってね、先生にいってレントゲンとってもらったら見事にガン細胞が全部消えてね」


「じゃ、じゃあ!」


「あぁ、完治だってさ。不思議なもんだね。この指輪ひとつで…って何だいあんたたち」


 剣也と奈々は母に抱き着いた。

細かった身体も少しだけ太くなったのか、抱きしめるなんて久しぶりだったのでよくわからない。

それでも母の体調がよくなって本当に嬉しい気持ちが全面にでて思わず飛びついた。


「よかった、お母さん~」

「本当によかったよ、母さん」


 母は何も言わず二人の頭をなでる。


「じゃあ今日からここに住めるの?」


「いやだよ」


「え?」


「あんたたちもう高校生だろ、しかもお邪魔になるのはいやだね…」


「お、おはようございま~す、鈴木美鈴です」

「はじめまして、蒼井レイナです」


 二人が母に挨拶をする。

美鈴に関しては顔が引きつっているが、レイナは落ち着いて挨拶をする。


「二人が世話になっているね、一緒に暮らしてるんだって?」


「はい、私こそお世話になってます」


「バカ息子を頼むよ、優しいだけが取り柄だけどね」


「はい! 知ってます。とてもやさしくて素敵な人です」


 レイナがはっきりとそう答える。

それを見た母も優しく微笑み、二人をなでて足を返す。


「じゃあ、私は行くから。これ返すよ」


 指輪を返して背中を向ける。


「行くからって、どこに行くんだよ! もう前の家は売ってるんだよ?」


「そうだね、だから旅行に行くことにした。調子がいい今のうちにね。世界をみたいんだ」


「旅行って……」


 剣也は思い出す。

母はいつも世界一周したいねと口癖のように言っていた。

父がいなくなってから働き尽くし、そして入院。

自分のための時間など皆無だった母の夢。


「入院費用もいらなくなったからね、せっかく歩けるようになったし子供の面倒も見なくてよくなったんだ。好きに生きさせてもらうよ」


「お金は足りるの…? 俺の稼ぎで恩返しさせてよ、口座にいれとくからね!」


「はは、親孝行な息子だね。浮いた入院費が結構あるからとりあえずは大丈夫さ」


「母さん……」

「お母さん……」


 すると母は二人を抱きしめる。

二人も抱きしめ返す。


「あんたたちの人生だ、好きに生きな。親離れだよ。私も子離れだ」


「いつでも帰ってきてね」

「待ってるから」


「あぁ、じゃあ元気でね」


 そういって母は去っていった。

その背中はまっすぐで、足取りは軽く楽しそう。

剣也達も寂しくないと言えば嘘になるが、母を止めることはできない。

今まで自分の時間を持てなかった母が初めて自分の時間を持てるのだ。

なら好きに生きてほしいと剣也達も思っている。


「たのしんでね…母さん」



 母を見送った剣也達はそれから40~50階層を周回した。

文化祭の準備、装備品の強化。

忙しい毎日を送る。


 この結果Bランク装備、加えてAランク装備もいくつか集まる。

錬金の種に回しレイナの装備、剣也の装備を強化する。


 努力のかいあって、遂にレイナの装備すべてがAランクへと進化した。

名もなき装備はすべての部位が存在する。

頭、胴、手、足の4つだ。


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装備説明 

・名もなき防具(頭)Lv1(Lvによる上昇なし)

 Aランク レア度★★★★

能力

・知力+3000

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 大精霊の髪飾りのほうがまだ効果が高いため頭装備以外はすべてこの種類に変更した。

そのためレイナのステータスはこうなった。


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名前:蒼井レイナ

DP:230pt

職業:勇者

・勇なる者Lv3+2(アクセサリーにより2上昇):次のレベルまで10万pt

(Lv*1000能力値上昇)

・生命回帰LvMAX:(未開放)


◆装備品

武器:【名もなき剣Lv1】

頭 :【大精霊の髪飾りLvMAX】

胴 :【名もなき防具(胴)Lv1】

手 :【名もなき防具(手)Lv1】

足 :【名もなき防具(足)Lv1】

アクセサリー:【鬼皇のピアスLvMAX】


◆ステータス

攻撃力:5000(+8500)

防御力:5000(+5500)

素早さ:5000(+5500)

知 力:5000(+4500)

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 また剣也も頭の装備がいまだ帝装備だったため50階層でドロップした装備に変更した。

装備したのは大ボス 大精霊イフリートが落とした兜。


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装備説明 

・大精霊(炎)のヘルムLv1(Lvによる上昇なし)

 Aランク レア度★★★★

能力

・知力+4000

・温度耐性 大

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 知力が上昇に加えて、温度耐性が大。

ためしに火に触れてみたら温度を感じなかったので炎ぐらいなら無効化してくれるようだ。


 この装備を付けてさらにダンジョンに潜る。

彼らが目指すは60階層。

推奨ランクは変わらずAランク、ただし攻略したギルドは宵の明星のみ。


 しかし剣也とレイナは攻略した。


 宵の明星のみが到達した60階層という最高到達点に到達する。


 装備品の力、勇者の力、錬金術師の力。

その圧倒的な成長速度をもってトップギルドに肩を並べる。


 そしてその時はやってきた。


「いよいよですね」


「先輩今日劇見に行きますから!」


「あぁ、頑張るよ」


 今日は文化祭三日目最終日。

午前中はメイド喫茶、午後から劇、そして後夜祭。


 二人は緊張しながら学校へと向かう。

少年は、主役として主人公として。

少女は、ヒロインとして愛を伝えるために。


「ん? 地震? 最近多いな…」


 そして約束の日へ。







あとがき

カクヨムでサポーター制度ができました。

とりあえずよくわからないので、サポーターの方限定の近況ノートに次話更新分を乗せることにしました。


よかったらサポータになってくれると嬉しいです。

美鈴と同じサポーターですよ!

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